「人は他人の10%しか見えていない」アンダーカレント iccoさんの映画レビュー(感想・評価)
人は他人の10%しか見えていない
『ムーンレディの記憶』(カニグズバーグ著)で、「人は他人の10%しか見えていない」というようなセリフがあって、なんかそれはとても真理をついてると思っていたのだけど、『アンダーカレント』の「人をわかるってどういうことですか?」も一緒だなと思った。
みんな他人を自分が見たいようにしか見ないし、それは自分にとって都合のいい見方だから、本当のその人を知ってるとは言い難い。
そもそも誰しも多かれ少なかれ他人に見せたい自分と、本当の自分が違うことでしんどい思いをしているはず。
目に見えてわかりやすいものであれば、それは例えば自分の中の性別の不一致だったりするのだろう。
けど大概はもう少し表からはわかりにくい内面のことが多いと思う。
それを悟のように自分でも気づかないほど上手く、見せたい自分像に擬態できる人だったら、尚更本当のその人はわからないだろなと思った。
そして悟よりもっとわかりにくいのは堀だろう。堀は他人に見せたい自分を上手く演じて見せられた悟の仮面とは逆に、他人除けのために年々分厚くしながら被ってきた仮面なんじゃないかな。
そしてかなえは自分の心に仮面をつけてしまったのかもしれない。
この三人は自分の本当の心を騙し騙ししながは生きてきたサバイバーなのかも。
とても繊細な話だけど、凝った音の表現や、全員演技派(リリーさんはそもそものキャラの完全なる実写)のおかげで、とてもうまく美しくまとまっていて心に響く作品に仕上がっていた。
あと水に沈むシーンはすごくイメージ通りでびっくりした。原作読み直したら当たり前だけど白黒なんだよな、けど脳内でこんな色で再現してた気がするわ、とても納得だった!!
話自体は重いのだけど、それぞれに赦しがあり優しいので、穏やかな気持ちで終われたな。これは私は一人で映画館で観たい映画だった。この気持ちに浸ったまま帰りたい感じ。