劇場公開日 2023年3月10日

「技術者魂」オットーという男 かなり悪いオヤジさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0技術者魂

2023年10月11日
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実はスウェーデンで大ヒットしたというオリジナルを観たことがあるのだが、舞台がスウェーデンからアメリカの新興住宅地に移った以外は、ディテールを含めほとんどオリジナルを踏襲しているといってもよいだろう。オリジナルは若かりし頃の回想シーンがやたらと挟み込まれるためリズムが悪く、割りと冗長だったイメージがあるのだが、トム・ハンクス・バージョンの本作はそれをあまり感じなかったのである。

偏に主演俳優の求心力の違いといってしまえばそれまでだが、かつて大量生産大量消費文化の中で生まれ育った元ドイツ系技術者がもっとも大切にしたこと、つまり“同質性”や“正確性”がリメイク製作にあたっても生かされていたからではないだろうか。外見が全く同じ住宅が立ち並ぶ住宅で、オットーが毎朝欠かさずに行っているルーティンの“見回り”にしても、決められたルールに則っることは、そこに暮らす人々がみな“同質”の生活を送るためにはなくてはならないことだったのだ。

ゴミの分別や、入場門の開け締め、車の乗り入れや無断駐車。ペットの糞尿後始末にいたるまで、昭和の日本都市住宅地では当たり前だったことが、このアメリカの田舎町の一角で、口うるさい定年オヤジの手によって頑なに守られていたのである。しかし、“個性”という名の堕落によりそういった習慣はいつのまにかおざなりにされ、誰もルールを守らなくなってしまった。その代償が“肥満”という人間が最も恥ずべき怠惰の象徴なのである。

ハンクスがオットーを演じるにあたって、オリジナルに加えた変更は、減量して昔の自分と同じ体型を保つ、というただ一点だったはず。同一エリアに暮らす若い男たちがエクササイズに精を出す様子をみて、オットーはどう思ったのであろう。オートマやカメラ、アラームなどの技術に頼って人間は結局どうなった?五感が鈍って楽した分、身体に余分な脂肪がついただけだろう。どいつもこいつもブクブク太りやがって、男ならだまってマニュアル車にのれ💢

そんな時代錯誤な、と若い君たちはそう思うのかも知れない。なんでもかんでもスマホにインプットすれば黙っててもアウトプットが返ってくると思ったら大間違いで、駅のホームから人が転落しても自撮りに夢中で手助けもしない、縦列駐車もままならない、無感動&不器用人間を大量に放出しているだけなのである。そのインプットとアウトプットをつなぐ過程こそが実は本当に大切なことであり、この近所の嫌われものオットーが体現する確かな技術力があってこそ培われるものなのであろう。オリジナルと寸分違わぬリメイクを作った理由もまさにそこにあると思うのだ。孤独死しても直ぐに見つけてくれるメリットも付いているしね。

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かなり悪いオヤジ