「1974年、フランス・パリ、国会では人工中絶合法化の法案審議の真っ...」シモーヌ フランスに最も愛された政治家 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
1974年、フランス・パリ、国会では人工中絶合法化の法案審議の真っ...
1974年、フランス・パリ、国会では人工中絶合法化の法案審議の真っ最中。
カトリックの議員が多数を占める中、法案を通そうと頑張っているのは、健康保健大臣シモーヌ・ヴェイユ(エルザ・ジルベルスタイン)。
彼女はユダヤ人ホロコーストの生還者で、常に、主流社会から顧みられることの少ない社会的弱者の立場を考えて行動をしてきた政治家だった・・・
といった内容で、映画は3つのパートに分かれています。
ひとつは、第二次世界大戦下、ユダヤ人迫害に遭った時代。
もうひつは、自伝を書くために半生をふりかえる最晩年。
そして、第二次世界大戦後から20世紀末までに至る時代(これは、いくつかの短いエピソードが綴られていきます)。
ただし、映画はそれが時代順に並んでいるわけでもなく、最晩年から振り返るという態でもないのが、観る側としては、やや混乱するところ。
もっとも重きが置かれているのは、第二次世界大戦の時代で、まぁ、映画としては、ここに力点を置くのは致し方ないところ。
冒頭で描かれる人工中絶合法化法案も予期せぬ妊娠、望まぬ妊娠を強いられた女性たちを救うためのものなのだが、その後もシモーヌは、薬物依存症者やエイズ罹患者など、主流社会から白眼視されるひとびとの人権を守ろうと活動をする。
主流社会からはみ出てしまったひとびとの人権を大切にしないのは、権力を持った主流社会側の傲慢であり、その傲慢さは暴力へとつながり、最終的には第二次大戦下での迫害へとつながる、根は同じものなのだ、と。
そう、シモーヌを通して見た第二次大戦後のヨーロッパ史でもあり、「わたしたちはこのような時代を生きてきた。君たちはどう生きるか」と問う映画でもあります。
そういう映画なので、ぜひ、若い人たちにも観てほしい映画ですね。
演出では、ワンカットの(ややフワフワした、流れるような)長回しが多く、なんだか褒められないなぁ、なんて思ったのですが、「個人の記憶の積み重ねが歴史になる」というモノローグもあることから、記憶の途切れなさを表しているのでしょう。
きちんとしたカット割りは、すでに定型化された歴史、個人から遠く離れた歴史、と監督はみているのかもしれません。
シモーヌ役は、第二次大戦時の十代後半から中年期までをレベッカ・マルデールが、中年期から晩年までをエルザ・ジルベルスタインが演じており、両女優とも力演・好演でした。