劇場公開日 2023年4月29日

「彼女が告発するのは一体誰なのか、考えずにはいられない一作」私、オルガ・ヘプナロヴァー yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 彼女が告発するのは一体誰なのか、考えずにはいられない一作

2025年6月21日
PCから投稿

美しいモノクロームの映像ですが、それが映し出すのは主人公オルガ・へプロナロヴァー(ミハリナ・オルシャンスカ)の際限のない渇望と絶望です。

彼女は自分自身を「サイコパス」と称するが、果たしてその通りなのか。彼女が繰り返し告発する「お前たち」とはいったい誰なのか、観終わってからも答えのない問いが頭を離れなくなります。

タクシー運転手などの労働に従事するオルガですが、決して貧しい家庭の出身という訳ではなく、むしろ経済的に裕福な両親は、何とか彼女の突拍子のない要望をかなえようともします。しかし彼女は彼らの干渉をことごとく拒絶。その一方で、自分自身の欲動に従って振舞ってみても、最終的に誰も彼女を受け止めきれません。その結果、彼女は徐々に孤立していきます。

こうした出来事が積み重なって、一つの大きな悲劇に結び付いて行くのですが、それでも彼女に寄り添うカメラの視線に動揺は見出せません。それはようやく彼女が、自らの存在を社会に認識させた、というある種の達成感の反映なのかもしれません。

彼女がなぜこの悲劇を引き起こしたのか、その動機を彼女は手紙という形で書き記しますが、その主張を自己陶酔、自己満足と切って捨てることも可能だし、その意外な吐露に衝撃を覚えることも可能でしょう。

果たして本作を観た人はどんな感慨を抱いたのか、聞いてみたくなる作品です。

yui