劇場公開日 2023年4月29日

「復讐は失敗に終わった」私、オルガ・ヘプナロヴァー JYARIさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0復讐は失敗に終わった

2023年7月2日
iPhoneアプリから投稿

オルガ・へプナロヴァー。
歩き方も妙に猫背な感じも
あの本や紙の持ち方も
人を信用していない眼差しも、
真っ直ぐに瞳を見れないのも。
全てがその人だったように感じた。

もうね、オルガが凄く魅力的に見えた前半部
だったからこそ、自身の人生を歩む姿が見たかったよ…。
実在した人物だから仕方ないのだが。
自らのことを性的不能だとか、人間関係を築けないとか、そういう風に追い込んでいったけど、
それでもいいんだよってことを誰かが言って欲しかった。
同じような人がいることを知って欲しかった。

愛と欲望に迷う姿が印象的で。
暴力的な父親にも、そしてその影響なのか
ネグレクト気味な母親にも、愛を与えられなかったオルガ。
(母親が薬を金だけを渡すシーンは本当に最悪だった。
オルガを化け物見るみたいに見ないで、って思った。
この辺は『ニトラム』を思い出したりした。)
だから、欲望は満たすことが出来ても、
愛の与え方も、受け取り方も分からない。
知らないから、出来ない。

だから、復習を選んでしまった。
人生を変えたくて。終わらせたくて。
誰かに自分を認めて欲しくて。
ここにいるよって言いたくて。
お母さんに振り向いて欲しくて。

事故直後に放心状態で歩く姿とか
本当に子供のように見えてさ…。
ああ、まだ子供だったんだって思った。
ただ家を出ただけで全く自立出来てなかったんだ。

刑務所で架空の父親の話をしていた姿は
本当に哀しかったですな。
多分、家にいても小屋にいても、
何度も何度も架空の家族像を想像していたんだろうなと思う。
誰もが暖かくて優しい家族を想像して、
理想の恋人の隣にいるのを想像して、
それを何百回と繰り返した最後に、一人が好きだってなったんだと思う。
その現実との乖離が復讐という気持ちを抱かせたのだと思う。

それでも、オルガが死しても、
家族の生活は続く。
彼女を苦めた人たちへの復讐は、
全く無意味だったという結末になる。
(勿論、殺人者の映画だからそうなって当然)
復讐の意味と同時に、オルガの存在自体も
この世から抹消されたような、そんな終わり方だった。

まあでもやっぱり、自分がこの世に不要な存在であるとか
そう想ってしまうところから、死にたいとかが始まる気がする。

手紙とか、独白とかが凄く良くて、特に、
「いつか 嘲笑と私の涙を償わせる」
めちゃくちゃ良かった…。
こんなこと他者に対して思わせちゃいけない。
し、誰かにこんなこと思わせる社会じゃいけない。

映画全体を通して、全く感傷的でない感じが好みで、
オルガ自身の苦悩も極めて淡白に写している、
だけど伝わってくる、そのバランス感覚が素晴らしかった。
(トラウマを想起させない為に、直接的な加害シーンが少ないのも良かった)
画角の切り取り方も、白黒の絶妙な光彩も
凄く好みな映画でした。

JYARI