劇場公開日 2023年4月28日

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「個々個々問われる知識が学部レベルでやや厳しい…。」不思議の国の数学者 yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5個々個々問われる知識が学部レベルでやや厳しい…。

2023年4月28日
PCから投稿

今年137本目(合計788本目/今月(2023年4月度)32本目)。

タイトル通り、数学をテーマにした韓国映画。テーマとしては数学というだけであり数式や定理がバリバリ出てくるわけではないですが、日本と韓国では高校(に相当するもの。以下、日韓で文化制度が異ならないものは国名省略)で扱う内容が異なり、映画を見ていると韓国で扱う範囲は日本でいう学部1年(理系共通)程度であるようです。

もう一つのテーマとして「学問の自由」という論点があり、映画内では明示的に示されていませんが、「学問の自由」を憲法や法律で定める国は、多くの国において「学問の自由」のその性質上、その主体が学生や生徒児童になるため、その当事者の目線に立った「子どもの学習権」という概念があり、日本はこの立場に立ちます(映画は韓国のものですが、韓国においてもそのことは共通で、そのことは映画内でも明示されています)。ただ、この映画で描かれる韓国と「韓国の北側の国」(便宜上、国扱い)ではその「学問の自由」は明確にその保護領域が違うことも映画の描写から明らかです。

個人的に気になったのは、やや高度な数学の知識が求められ、日本基準では大学(理系)の学部1年の理系共通教養程度の知識が求められる点にあるのだろうと思います。文系の方が見ても一部のセリフがかなりわかりにくい点はどうしてもあります。中には「こっそりものすごく高度な話を裏でちらっとやっている」部分もあり、全部追うのはリアルで学部や大学院で数学科卒のレベルでないと難しいと思える点もあります(私ももう20年くらい前ですが…)。

ただ、個々「文系の方にはやや厳しい描写(趣旨のわからない描写が出てくる)が多い」点は言えても、映画内でいわれる「π(円周率)ソング」など美しい描写もあり、今週は本数も少ないので、韓国映画が好きならおすすめの一作です。

 採点に関しては下記を考慮して、4.4を4.5まで切り上げています。

  (減点0.2/積分と極限の入れ替えについての描写)

 ・ 序盤の学校で出てくる部分で黒板でちらっと出てくる部分ですが、この入れ替え(積分と極限の入れ替え)は、無条件にできるわけではなく、一定の条件を満たす必要があります(「アルツェラの定理」。「アスコリ・アルツェラの定理」ではないので注意)。ただし、日韓ともに、高校の微積分で習う範囲の一般的な関数では入れ替えは通常可能です(が、このことは説明が必要。映画内で「答えよりも結論にいたる理論が必要」と言っているため)。

  (減点0.2/「イプシロン」の指す意味)

 ・ 映画内では微妙にごまかされていますが、「子供」や「ボールペン」などの描写で登場します。ここは前提知識がないとわかりにくいですが、日本の学部1年でいう「ε-δ論法」でいうイプシロン(ε)のことであることは知識がわかります(数学においてεというのは、「小さい数」という文脈で多く登場します)。

  (減点0.2/リーマン予想について)

 ・ 映画内では2回説明があり、一つは「素数の分布について」、もう一つは複素関数論の中での説明ですが、後者は学部3年(数学科)レベルバリバリの話で、かつこの2つは同じ説明ですが(ただし、このこともちゃんと前提知識が必要)、複素関数論まで出てくるのは「日本での放映を考えると」やや厳しいのではなかろうか、と思います。

yukispica
Mさんのコメント
2023年5月24日

yukispicaさんは数学者なんですね。
でも、無理数の虚数乗が整数になるなんて、やっぱり凄いです!

M