「ファミリーのメキシコは遥か遠く」ワイルド・スピード ファイヤーブースト 0UTSIDER109さんの映画レビュー(感想・評価)
ファミリーのメキシコは遥か遠く
20年続くシリーズの総決算。出だしから張り切ってスタートダッシュを切ったのはいいが、観客を置いてけぼりにしたまま勝手にレースを進めてしまっているようなストーリー展開は褒められる気がしない。前作が気の知れた友人たちとの同窓会なら、本作はほとんど記憶にない親族が一同に出席する親族会にお呼ばれしたようなもの。前作よりは格はあがるが正直楽しくはない。
最大の問題点はジェイソン・モモア演じる最強の敵ダンテの無理のありすぎる設定にある。あらゆる物理法則が通用しない本シリーズだが、こいつはそんな世界の主人公たちすら翻弄する超チート能力の持ち主。アベンジャーズとジャスティスリーグが束になっても敵わず、ジョーカーやサノスすら恐れて逃げ出すようなその戦闘能力の高さは、強えぇ、を通り越して物語進行のために用意されたエキスマキナのようにしか感じない。結果、どれだけド派手なアクションシーンを連発されたところで、すべてが予定調和の八百長試合にしか見えなくなってくる。そもそも、すべてが絵に描いた餅でしかない本作の最大の魅力は常識を超えたスーパードッキリ大作戦で華麗に勝利する主人公たちにある。今回はそんな主人公たち最大の魅力を封じられ、チート能力持ちの敵の手の上でただ踊っているだけで別にドキドキもハラハラもしない。だって、どうせ最後は勝つんでしょ?
願わくば最終作となる次回作では「彼」の登場を期待したい。スターウォーズではすでに亡くなった人物の再登場を可能にしているのだからハリウッドの魔法を使えば技術的には不可能ではないはずだ。それは死者への冒涜などにはならない。天国で見守っている彼へ、すべての観客と関係者たちからの「ありがとう」の意思表示になるはずだ。