劇場公開日 2023年3月3日

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「リベロとの読書会 君なら死ぬ前に 最期に どんな本を大切な人に託すか」丘の上の本屋さん きりんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5リベロとの読書会 君なら死ぬ前に 最期に どんな本を大切な人に託すか

2025年3月31日
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鑑賞方法:VOD

····持ち主が代わり
新たな視線に触れるたび
本は力を得る
(『風の影』カルロス・ルイス・サフォン)

映画が始まってじきに提示された名言だ。
なるほど、そのような視点は持っていなかった。これは古書を扱う人間ならではの逆説だろう。古い書籍自体が生命を持ち、所有者の間を転々とする毎に読み手の力を吸収して、人間をば感化させる歴史の重みを積み増してゆく。そうして本が更に力を得てゆくのだと。
未読だが、その「風の影」の骨格を下敷きにしてこの映画も作られているようだ。《古書店の少年と謎の経歴の老作家が出会って時空と国境を超えた本の世界を旅する内容》、だとのこと。

本作の舞台としては、「パソコンでの検索と通販取り寄せ」は普及はしているが、スマホはまだ氾濫していない、という感じの時代設定。

良作だった。
コンセプトとしては、恐らく本好きの少年たちを対象とした学習教材風の作りで、その制作に当たってはUNICEFも応援してくれているらしい。そしてすべての子供たちが安心して良書に出会える環境をと願っての作品だ。

僕も若い頃は本屋に入り浸り、図書委員を務め、神田の古書店街を歩いたものだ。
書店の乾いたひんやりした空気と、紙の匂い。インクの匂い。そして古本のホコリと黴の匂い・・。
学校の図書館ならば誰がこの本を手にしたのかを「読書カード」の記名から伺い知る楽しみもあった。挟んであった私物の栞や、傍線にも読者に起こった何がしかの物語の痕跡がある。

そして
「本屋や図書館に行くと何故トイレに行きたくなるのか」という研究は読んだ事がある(笑)

本作「丘の上の本屋さん」には様々なお客が出入りする。
カフェのお兄さん、牧師さん、自著への誇りを語る先生、初版本マニア、買い取りで小遣いを稼ぐ男、そしてネオ・ナチもやってくる。
そしてその客のすべてに対して店主のリベロが実に味のある言葉で応じるのだ。

「2500年前にこの本を書いたイソップは君の肌と同じ色のアフリカ人だ」と知らされた時の、エシエンの背中と歩幅に気付いたろうか。
移民の子との読書会は素晴らしいし、選書がランクアップするごとに変わってゆく、店主の期待と少年の成長の表情も見どころだ。
著者との邂逅。ならびに書物によって人生が動かされる瞬間がスクリーンに映る。

(ただねぇ、「星の王子さま」を「天ぷらを触った手」で受け取らせるかなぁ?
あのシーンには アアアッ!と思わず声が出たし、ドン引き。
これ、監督が本をあんまり大切にしない人である事がバレているね。あり得ないお行儀の悪さですから、あそこは大変に残念。
景色も音楽も良いのに、どこかテレビドラマ風の、かつ学校放送みたいな安っぽいカメラもあって、そこ、少し星を減らした)。

でもエシエンのような年代の子たちにとっては、本への興味を沸き立たせてくれるし、本屋にも足が向く。そして本好きの大人たちが世の中にはいるって事にも出会える ―
そうしたエシエン世代のための、シンプルに徹した、しみじみとしたいい映画だったと思う。

穏やかななリベロ。
自身の過去について、彼はまったく語らないが、壮絶なものを経てきているのではないか。ユダヤ人であるとか、父親がパルチザンでナチかムッソリーニに殺されたとか。
そういう人たちはヨーロッパにはたくさんいるのだから。

そして僕はつい最近「星の王子さま」を、引きこもりの女の子にプレゼントしたこともあり、
「最後に贈る本に想いを託す」―という大人たちの祈りも、強く感じた本作だった。
(レビュー有り、ミュージカル版「星の王子さま」)。

・・・・・・・・・・・・・

追記

で、「世界人権宣言」ですか?(笑)

「ところであなたはあなたのお国の憲法は何回読まれましたか? 私は日本国憲法を3回読みました」と語る日本に住む外国の方のエピソードを読んだ事がある。
読んだ? 読んだことある? ちゃんと知ってた?

「どうおもったかね」
「どこが面白かったかい」
「一言でまとめると?」
リベロはそう訊くよ。

たーいーへーんー! (焦っ)

きりん
まーさんさんのコメント
2025年3月31日

きりん さま
共感ありがとうございます😊
とても良い映画でしたね。
細かいところまでご覧になってらっしゃる。
感服いたしました。
これからもよろしくお願いします🙇

まーさん
きりんさんのコメント
2025年3月31日

なるほどマサシさん

素敵な司書さんと出逢われたんですね!
いい大人に出逢うとその後の人生の方向が変わります。
原作を映画が新しく解釈し、それを更に鑑賞者が自分なりにそれぞれに翻訳して読みとる。
本の印刷の活字も、朗読者のセンスが物を言う。
興味深いお話しでした。
コメントありがとうございました😊

きりん
マサシさんのコメント
2025年3月31日

僕が尊敬する司書さんに、読み聞かせを聞かせて貰いました。驚きました。
抑揚を付けずに、淡々と読む語り口でした。
その司書さん曰く「映画で他人からネタバレされたくないでしょ」って感じの話をされたと記憶します。
「100万回生きたねこ」だったと思いますが、淡々と読む姿を見て、聞く人は自由に想像するんだそうです。
そんな時から映画のレビューも書く機会が増えたと思います。
例えば、2001宇宙の旅は原作を読むと難しいとされる場面が小説では興醒めするように文字で表しています。でも、キューブリック監督作品は言うまでもなく哲学的になります。
どちらが良いとかではないですが、本の欠点はそう言った所にあるかなぁって思ってます。それと、自国の文字で書かれていないとほぼゴミと変わらないって事だと思います。
「少女終末旅行」と言う漫画で図書館を発見する場面が出てきますが、彼女達は字が読めません。悲しい場面だと思います。でも

でも、僕は本が好きです。理屈じゃないと思います。
「何いってんだ」だろうと思いますが。
僕も学級委員長に立候補して、落選。中学時代は三年間図書委員でした。

この映画で共感ありがとうございます

マサシ
humさんのコメント
2025年3月31日

共感してくださったおかげで今朝はこの作品を思い出しつつ、きりんさんのエピソード2つでまた新たな余韻がさざ波みたいにきていますー😌
ありがとうございます。

hum
ミカさんのコメント
2025年3月31日

ありがとうございます👍

ミカ
きりんさんのコメント
2025年3月31日

ブルキナファソのトーマス・サンカラ大統領は、なかなかいい政治をやった人のようですね。

きりん
ミカさんのコメント
2025年3月31日

ブルキナファソでしたか!モンテネグロとは全然違いますね。どうしてモンテネグロと思ったのか、、、?

ミカ
グレシャムの法則さんのコメント
2025年3月31日

『星の王子さま』ですか。
なんと素敵なプレゼント!!

〝ほんとうに大切なものは目に見えない〟

それだけにとどまらず、さまざまなことを考えるきっかけをくれる本でした。
図書館に行って再読します!

グレシャムの法則
きりんさんのコメント
2025年3月31日

シュヴァイツァー博士の本も登場していましたね。
博士と一緒にアフリカで働いた野村医師が院長を務める病院で僕、働いていました。ちょっと自慢です。

きりん
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