「やさしくあたたかな物語」丘の上の本屋さん humさんの映画レビュー(感想・評価)
やさしくあたたかな物語
⚫︎とてもネタバレですので鑑賞前の方はご注意を。
アパートの重い扉を閉め、小さな歩幅でゆるゆると続く丘の坂道を少し上ると自身が経営する小さな古本屋に着く。いくつかのポッケに手を突っ込み探り出した鍵で錠を開ける。
丘のてっぺんで店主のいつもの1日がゆっくり始まる。
狭い間口の店の奥にあるリベロの椅子からは、さんさんと太陽を浴びる明るい色の石畳みが真正面にみえ、向こうの山手の樹々の緑がその奥に映える。
イタリア中部のからりとした風が吹き抜けると揺れる葉枝は、青く澄んだ開放的な空へと手を伸ばしているようだ。そんな景色がいつもそこにある小高い丘の道には歴史の味わいを感じさせる古いアパートや小さな店が静かに並ぶ。
穏やかな人の往来やカフェのテラス席でくつろぐ姿が田舎ののんびりした心地よい空気を漂わせている。
年配のリベロを気にかけて時々様子を見に来たり、すすんで重いものを運んだりしてくれる隣りのカフェの店員ニコラとの会話から、リベロが商売的な儲けよりも本を介して人とのコミュニケーションを大事にしていることがわかる。
もちろんリベロの本への愛情は熱々で、尋ねてきた客にはそれぞれにあわせて丁寧に対応し、何かを伝える使命を感じているようにみえる。
そんなリベロの店の先、反対側からの石の坂をすたすたと軽い足取りで登りながら移民の少年エシエンがやってくる。
リベロに借りた本を返し、会話をし、また違う本を貸してもらいに。
エシエンには本を買えるお金はない。
以前、興味深そうに店頭の本を眺めていたところをリベロに声をかけられ、一冊貸してもらったのがその始まりだった。
エシエンにとって本を貸してもらえることは、自分の世界がひろがる今までにない楽しみだっただろう。
リベロはある時は孫に、ある時は息子に接するようにエシエンに本を勧める。
そして、返却の都度感想を尋ね、お返しにちいさなヒントを与える。
そんな交流を経て、やがて彼らは大きな歳の差の友達になっていく。
エシエンが読書に夢中になるにつれ目に輝きが出て足取りも快活になり、リベロと話すことで表情が豊かになり自分に自信をつけていく様子は微笑ましく嬉しく感じた。
リベロもまたこの小さなお客さんとの会話や次の本を選ぶことを小さな生きがいにして楽しんでいるようにみえた。
いつものように大事そうに本をかかえ店に向かうエシエン。
しかし、たのしい時間が突然に終わったことを知る。
ドアの前で、愕然とするエシエンを抱き寄せたニコラはリベロから預かっていた別れの手紙を現実の前に立ち尽くす彼の小さな手にそっと渡すのだ。
エシエンにとって辛い別れだったが、丘の上の本屋さんとの出会いは、まちがいなく豊かな経験だった。
本にはたくさんの魅力があり、その考え方を教えてくれたリベロと過ごした日々が記憶に残ったのだから。
観客の私たちは、未知のドアを開けながらすすむわくわく感を初めて知ったエシエンの気持ちを味わう。
そして、誰かを支える力が本にあることを信じるリベロが、古本屋の主人としての最後の役割をエシエンに向けた気持ちを受け止め自分の胸の深いところにそっと置く。
これから成長していくエシエンに大切なものを教え続け、彼には悟っていた命の陰をみせることなく遺言に託すことを済ませていたリベロ。
エシエンを心から応援していたリベロのチャーミングでダンディな人柄はあの店がある丘の陽だまりときっと同じあたたかい匂いがしたような気がする。
そんなリベロをさりげなく見守っていたニヒルでちょっとキザなイタリア男・ニコラもまた、心優しく真面目でよき信頼でリベロと結ばれていたことがわかる人物だった。
本作には、彼ら主要人物の暮らしぶりや本屋にやってくる様々な客たちの背景は描かれておらず、全て想像に委ねられている点が魅力のひとつなのだと思う。
少しずつみえるものに私たちが思い描いたものをプラスして観ていいのだ。
それはまるで説明の最小限な絵本を手にとったときと似ている。
リベロの名のように自由な発想でつくりあげる醍醐味をそのままに…。
凹凸すら趣きになる石畳みの感触、青い空、樹々を渡る風を感じながら丘の上の本屋さんにたどりついたら、きっとあの奥の席でリベロの話をエシエンが生き生きとした目で聞いているのが見える気がする。
そして私の自由な発想は、おもむろに顔を上げたリベロがやさしく出迎えてくれるんじゃないかと思ってしまう。
どーんとくる最後だけは、もうすこしオブラートに包みたかったので、そこだけ薄目をあけてみるくらいがいいかも^^;
修正済み
こんばんは♪
ご丁寧にご返信いただきましてありがとうございました😊
付箋の付いた辞書、ちょっとくたびれていて勉強意欲は無いものの必要に迫られ‥‥。
でも、読むなら電子書籍は抵抗ありますよね。
タイトル、いいですね💕
こんばんは♪
本大好き💕humさま❣️
昨今の本離れなどどうお考えでしょうか?辞書を現在活用されていますか?ごっつい電話帳みたいな女性誌購入されていますか。
ふと、思いついて、お尋ねした次第です。お時間ある時に気が向けばお教えください😘🦖
コメントありがとうございます😊
しかし、本作、本好きが集まった感想の場ですね。
エシエンに貸していたのはよく見る本ですが、知らない本もありました。こんな本屋さんがあればいいなと思う本屋さん。
おはようございます😃
ラストはねぇ、ショック❗️
せっかくレビューにしていただいた素敵な街並みの心温まる本屋さんが‥‥⁉️
後継者は居ないのですね。
オシャレ感もある背景なのに💦
エシエンに期待しなさい❗️かな?
でしょうか。
humさん、コメント有り難うございます。
良く思い出してみたら、最後の一冊の前までは
「貸してあげる」で
最後の本は
「君に贈る」でした。(…確かそうだったかと)
なので最後の一冊は、やはり
「少年へのメッセージ」
なのでしょうね。
今晩は
コメント有難うございます。10数年前に全国を席巻した新古書店の影響で我が町から古書店は無くなりました。
そして、毎年100冊程度引き取って貰っていた古書店も無くなり、新古書店に本を売りに行った事がありますが、そこでは本の価値はなく、只発行年と本の状態、売れ筋かどうかを基準に引き取られました。
別に読まなくなった本を売るだけなので、それからも定期的に新古書店に本を持って行きますが、今や紙媒体自体が少なくなっている故か、新古書店の主流もゲームや古着等に移行していますね。
時代の流れですね。では。
イタリアの学生なら皆が知っている小説『いいなずけ』を紹介しつつ昔のペストの時代で話を導入しています。本は薄くでもうつくしい写真が沢山掲載され、追伸として「日本の生徒へ」も書かれています。
『「これから」の時代(とき)を生きる君たちへ イタリアミラノの校長先生からのメッセージ』ドメニコ・スキラーチェ(アレッサンドロ・ヴォルタ高校校長)2020年2月25日(邦訳は5月15日発行)世界文化社刊
イイねありがとうございました。詩人ですねぇ。素晴らしいレビューかと勝手に感じました。邪悪な気持ちしか無い私には、最後のシーンは眩しすぎて・・脳が🧠割れそうなほど痛みました【拒絶反応とも言います】❗️素晴らしいレビューありがとうございました😭。