「地下アイドルと“推し活”を青春ドラマのフォーマットで描く」劇場版 推しが武道館いってくれたら死ぬ 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
地下アイドルと“推し活”を青春ドラマのフォーマットで描く
現在も連載中の平尾アウリによる漫画を原作とし、アニメ版、ドラマ版に続き、今回は実写劇場版。2022年10月クールに放送されたドラマ版と同じ配役で、ストーリー的にもドラマでの出来事から続く話なので、予備知識なしでいきなり劇場版を観ると、展開になかなかついていけないかも。
岡山の地下アイドルグループChamJamの中でも人気の出ない舞菜(伊礼姫奈)を全身全霊で推す、ジャージ姿でお洒落ゼロの主人公えりぴよを、トップアイドルグループの1つである乃木坂46を卒業した松村沙友理が演じるという、ひねったキャスティングが楽しい。現在たまたま再放送しているNHKの朝ドラ「あまちゃん」でも、80年代にトップアイドルの1人だった小泉今日子が「アイドルを夢見て挫折した女性」を演じているが、それに近い配役の妙だ。
地下アイドルが徐々に人気を獲得していく過程や、公演後の握手会の列でメンバー間の人気の差が如実に表れるつらさ、推し活にいそしむファンたちの日常など、推される側と推す側の両方の視点から青春ドラマのフォーマットで描かれ、アイドル界隈に詳しくない人でも興味深く鑑賞できるポイントは多い。
えりぴよがバイト先のパン屋で、舞菜を応援する「サーモンピンクパン」を開発して売り出すのだが、善意からとはいえ明らかに無許可で舞菜の写真を販促に利用したエピソードは、世知辛いことを言うようだが肖像権的に問題がある。件のパンはヒット商品になるので、事後的にでも売上の一部をライセンス料としてChamJamの所属事務所に支払うなどのエクスキューズがあればよかったのだが。地下アイドルに限らず、メジャーとアマチュアのはざまの芸能や表現の活動では、著作権や肖像権の扱いがあいまいになりがちなのは分かるが、商業映画の影響力の大きさや啓発効果を考慮するならきちんと言及すべきで、そのへんが少しもやもやした。