「こんな監督はもういない…でもこれで引退しないでほしい」君たちはどう生きるか せせりさんの映画レビュー(感想・評価)
こんな監督はもういない…でもこれで引退しないでほしい
前評判でわけがわからないって聞いてたけど、そこまで支離滅裂とは言えない。
異世界に行って帰ってくる話ですね。
でもその異世界のルールや秩序を千尋みたいにすぐ理解できないのが、生意気ながら酷評の最大の理由かと思います。
序盤は「あぁ生死に関わる島なんだ」と思うのに、魂とも死者と全く関係なさそうなイキイキしたおばけインコの大群に捕食されかける。突然の宮沢賢治感。
観てる人はそこで考えるのをやめてもしょうがない。
全体的に陰鬱で、複雑な立場ながらもお金にも健康や容姿にも恵まれた内向的な主人公、ただストーリーを追っただけでは謎が多すぎるところなどなど村上春樹感がある。
自分は村上春樹を読んでから村上春樹イエローページとか謎解き村上春樹とか色々講評考察買って読むのが好きなのでそういう人にはオススメできる。
一応書いておくと、主人公は終戦間際に疎開先の屋敷のそばで奇妙な鳥に導かれ、現実世界とリンクした異世界に迷い込む。
そこは生死に深く関わる島。自然の力と一体化した魔法を使うこともできる。
魂たちは海から命をいただいて力をつけてからこの世に送り出されるけれど、現実世界が災害や戦乱で荒れてるので、その分帳尻合わせとしてペリカンがやってきて魂を食べてしまい、生まれることを阻む。
現実世界に出てくるとインコの姿が変わるように、
存在や起きてることの見え方が違うと考えていいと思う。
現実世界はひとつで、時間は繋がっている。
どこかで行動を変えたらパラレルワールドが分岐するということはないのだ。これが宮﨑駿監督のメッセージかなと自分は思った。人は誰しも今とは別の道があったと信じて過去を後悔するものだから。
少女は異世界で未来の息子に出会う。自分の人生を生きれば、若くして死に、夫は実の妹と結婚してしまう残酷な運命が待ち受けている。
それでも、平穏でいる以上のかけがえのない幸せを手にする時もある。だから彼女はその残酷な運命を生きることを選択する。
少年は世界の均衡を保つ役割を担わない。世界の大きな渦と運命に翻弄されることしかできない1人の人間としての人生を選ぶ。
未来も過去も変えられない。
君たちならどうするか?
君たちはどう生きるかーー。
良かった点はやっぱり千尋とのリンクがすごかったこと。
千尋がトンネル越えて行った先とか電車乗ってる時に、ちょいちょい草原に家があったり、謎に大理石のがらんとした道があった。
あれをこうやってある程度具体化しても未知なる恐怖とロマンみたいなものをそのままにできる、そんな監督は他にいない。
他のアニメ監督は、視聴者である自分も含めて、世代的に既存の陳腐なイメージで育ってるから…つまり、夏休み!ワンピース!制服!ピンチ!顔のいい高校生が世界を救うため、スカートのまま走りまくるっ!みたいなどこかしょうもない話しか作れないんだよね。若くて楽しくてきれいなとこだけ集めたみたいな。
主役はまだしもどこに行っても何歳でもイケメン、美女しか出てこない。きれいじゃなくても痩せてなくても、あんなふうに温かみや愛嬌があって愛おしく思える人間を描ける技量がないから。ルッキズムを超えた絆もかけない。老いを心の底から受け入れる勇気がないんじゃないかなと思う。
子供主役の話にしても、みんなが共有してるぼくのなつやすみ感を脱することができない。
児童文学やドラえもんやクレヨンしんちゃんもよく異世界に行くけれど、幼少期からそういう異世界エンタメ作品がありすぎるのもあって、それ以外のああいう壮大な原始的風景やオリジナリティのある物語やルールを想像するのが難しい、と言ったほうがいいのかな。
もうすぐ原爆が落とされるというタイミングで、現実とリンクした異世界が一つの終わりを迎える。
確かに、あの戦争が人類の転換期の一つであったことは間違いない。
あの時お母さんがなんか喜びながら火に包まれるのは昔異世界で火の娘だったから…という発想はもう同世代では出てこないと思う…。
千と千尋にも見られる自然との一体感、同一化のような。これって日本(人類)古代の感覚なんですよね。
世界が終わりかけてることを13個の積み木(13作品)の崩壊で表現するのが意味深でたまらないです。
ここから残念だったところ。
どっちも先述したことと重なるけど、わざと未知なる部分を多くしているからこそいいんだけど、いいんだけどね。構造と秩序があいまいすぎてエンタメとしては物足りない。
モブのおばけインコがいっぱい出てくるのは原作の改変でオリジナルなんですけども、どうしても映画を観ただけだとちゃんと説明できません。食物連鎖の頂点だから?←無理やり
生死に関わる島だってこととインコは関係ないからね…。
もっと設定を大切にして死者との出会いとか(影だけでもいいから)オカルト全振りにしてもうもっともっと怖くしたり、もっと大冒険らしくしたり、なんかまとまった方向性がほしかったなぁ。偉そうですけど。
あと、どうしても目ギラギラ自信満々の父親に嫌悪感。姉が死んで、妹て…昔はよくあったんかもしれないし妻の実家が有力なんだろうけど、子供まだ作る必要ある?
母を亡くした傷も癒えてない思春期の少年に対する配慮ゼロの繁殖にドン引き。
下手なレビューになってしまいましたが、考察、オカルト好きは楽しめると思う。
とりあえず、エンタメ性という意味で、これで引退されては困る。
(加筆修正しました。)