「子供と一緒に見たいと作品」君たちはどう生きるか kijさんの映画レビュー(感想・評価)
子供と一緒に見たいと作品
宮崎駿は裕福な家庭に生まれ、戦時中も他人より苦労が少なかったと聞いた。本作の主人公の設定はそのような本人の生い立ちを重ねたものであろうから、自伝的作品と呼べるのだろう。作品を経るにしたがい、社会主義への傾倒から諦観、現代社会の共感的受容へと作者の思想が変化してきたことを感じてきた。本作においても現代社会を落とし込んだ世界が作られ、観る者にどのようなメッセージを投げかけているか読み取ることを楽しめた。
子供の話を聞かずに自分のことに終始する親や見た目が美しいが中身が醜悪なアオサギ、ひねくれてしまった眞人などは現代ではよく見る人の姿だろう。塔にこもり自分の理想的な社会を作ろうとした大おじは、かつて社会主義を理想的に考えていた宮崎駿と重なる。大おじの作った世界を自分の暮らす世界と似ていると言ったセリフは、自分が追い求めた理想の成れの果てを表していたように思う。命を軽んじる風潮や生きる力を失った人々、ペリカンやインコのように本来の求めていた姿からかけ離れてしまったのが今の世界である。
最後に大おじは汚れのない積み木を渡し、眞人に世界を作り直すよう求めるが眞人は拒否する。大おじの世界を冒険する前の眞人なら受け取っていたであろう。世界の姿を知り、どう行動するか。かつてのナウシカは風の谷に戻ったが、アシタカはたたら場で暮らすことを選択した。眞人もやはり、今の危うい世界に戻ることを選択する。自分の傷は自身の悪意の象徴であると言い、それを抱えながら生きていくと決意したのであろう。
私も子供を育てる親である。自分の子供にはよいものを残してあげたいと思うが、どう生きるかを決めるのは子供である。そして、大おじがそうであったように今の世界も始まりは善意だったと思う。悪意が混ざるのもまた、人間らしさなのだ。それとどう付き合っていくか。アオサギとどう付き合っていくか。子供と一緒に見たいと思わせてくれる作品だった。