「時代の周期と共に、ジブリ隆盛に区切りをつけるような作品」君たちはどう生きるか おひさまマジックさんの映画レビュー(感想・評価)
時代の周期と共に、ジブリ隆盛に区切りをつけるような作品
戦前生まれの眞人が生きていれば御歳90以上である。
新たな混乱の時代が這い寄るような、嫌なムードが世界中にただよう現代、眞人の積み上げた時代(積み石)のバランスがあたかも崩れていきそうな、そんな事になっているのだろうか。
勝手ながらの解釈でそう考えたとたん、タイトルのそれが自分にとって意味をなすのでありました。
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劇場で観るべきかどうか、迷いに迷った挙句、長期休暇だったり水曜サービスデーだったり、以前、息子が見に行って面白かったという感想に追いつかねばという気持ちだったり、自分でも可笑しなくらい言い訳ならべ、やっと観た本作品。
こんな言い訳 羅列の理由は、各方の作評は賛否割れまくっていて、どちらかというと否定的なそれも目立つのを散々知ったがゆえ。
それなので私は、本作は黒澤明の「夢」のような作品なのかしらと、ちょっとした覚悟を持って観に行きました。
結果、私の感受性にはとても良い意味で刺さったようです。(人それぞれ、ってやつですね)
まず、想像していたよりもずっと一連性のある物語と思った。平たく例えるなら、おもったより食べやすいよと。
但し、どうしてこんなに低評価があるのかは想像がつきまして、ヒーロー&ヒロインの大冒険譚、いわゆるジブリファンタジー的なもの?幾度となく金曜ロードショーで再放送されまくってきた王道のハラハラドキドキを期待してしまうと、呆気に取られてしまうのかなと。
宮崎駿氏のファンタジー作品は「アリエッティ」あたりが最後で「風立ちぬ」からはとても内省的な作風。本作はより内観が深まったものであるかと。(これは覚悟の上で鑑賞)
そして本作ははっきりと前編後編で分割されているようであり、前編はより宮崎氏の「内省風景」。後編は同氏のライフワークであった「ジブリ」。この接続はやや強引なところがあり、ここが苦手と感じる観客も多かったのではなかろうか。
私は、ここまで人の五感に迫るアニメ漫画を見たことがなかった。アニメ、二次元で得られる感動はいつだって視覚的で、大好きな鬼滅だって、推しの子だって、まずは視覚的な感動があって、だ。
本作では、視覚(風景)、音、あり得ないほど素晴らしい。その素晴らしさが私自身の心を現地に引き込んでいく。そして 匂い、香り、板張りの床から足裏に伝わる質感、手触りひとつひとつ、また味覚に至るまで(雑炊は不味そうだったし、ジャムパンは美味そう)通常音響の劇場だったが、気づけば 五感をフルに使ってしまっている。
こんな映像をCGじゃなくアニメで描ける人は、この先現れるのだろうか。色々と議論されることの多い宮崎駿氏だが、天才だと私はおもう。最早、絵画以上かと。
ぜひ海外での評価も聞いてみたい作品。
あ、そうそう。ペリカンとインコを見る目が変わっちゃったかな…
すみれ7878さん、コメントありがとうございます。
確かに、あまり考えすぎずに感じた方が得な映画でした。観賞から半年以上が経ちますが、意外とこの映画は心象鮮やかに残っているんですよね。
おもったより食べやすいよと
→いい表現ですね。確かに私もそう思いました。心と体の全体で素直に感じれば、それほど難しい話でもないと思いました。私は楽しく鑑賞できました。
ゆ〜きち様
フォロバありがとうございます。
本作GG賞受賞されましたね。
曰く、海外の方が素直な評価が高いとかでタイトルの違いも注目されていますね。
仰る通り、シンプルなタイトルの方が素直に鑑賞できるのかもしれませんね!
数々のいいね、そしてフォローいただき、ありがとうございました😊。
この作品は難しかったですね。真人の生き方がよく理解できなかったので、やっぱりタイトルはシンプルに限りますw
みかずきさま、フォロー&コメありがとうございます。スゴ腕レビュアーの方でいらっしゃいますのでフォローいただき光栄に存じます。元レビューも拝読しましたが文章力に感服しました。。
私たちはどう生きるか?ですよね。
米国との特異な関係性もあるようで、いつまでも「戦後の束縛」から離れられない現代の日本。本当はですね、一回離れたはずなのに、バブルが弾けたとたん、弱腰オヤジみたいな雰囲気で最近では寧ろ戦後にまた戻りたいのかなあ??と感じたりもしますね。国家としても目的を見失っているようですし、汚職や賄賂が堂々と権威をふるい始めているようでもあり。でも本当に文句を言ったりしない玉虫色な空気感が市民社会にも滲んでいるようなのが現代社会と私は思います。
で、年寄りによる、君たちはどう生きるか、という問いかけはずるい。ずるいんだけど、究極の討議議題だし無視もできない。この映画に「こういう例もあるよ」なんて示唆やヒントが一切なかったのも宮崎氏、尚更ズルいとは思いました。
デジタル社会で見られる日本の市民性はとても斜め向きだったり、後ろ向き、もしくは前衛気取りが多いと感じます。
私は眞人君や、アシタカやナウシカのような「曇りなき眼」で、まずはしっかり前を見て進まなければ、まずは最低限のそこから底上げなんじゃないかと日々過ごしております。
フォローありがとうございます。
私の方からもフォローさせて頂きます。
私、10年位前から、キネマ旬報、kinenote、Yahoo映画レビューなどに映画レビューを投稿しています。現在の目標は2回目のキネマ旬報採用です。こちらのサイトには昨年2月に登録しました。
宜しくお願いします。
本作、眞人は疎開先で、人間界ではない異世界に触れ、様々な価値観、世界観を知り、大きく成長していきます。眞人は、これからどう生きるかを定め、東京に戻っていきます。物語はここで終わります。プロローグで終わります。その先は、作品タイトルに繋がると感じました。
眞人の生きた時代より、多様化、複雑化した混沌とした現代社会において、君たち(観客)はどう生きるかを定め、行動しなさいという宮崎監督からの熱いメッセージ、エールが聞こえてきそうな作品でした。
ー以上ー
humさん、いつもありがとうございます!本当にそうですよね。。
宮崎氏はいわば純度100%のアーティストと思います。色々な分野のアーティスト(天性タイプ)って作品がずっと変わらないことは「ない」と考えてまして。レビューには書かなかったんですけども、ビートルズのアルバムの変遷になぞらえると見えてくる感じなんですよね・・。「風立ちぬ」と「君は…」がホワイト・アルバムのそれに被るんです笑。やりたい事やってるなー、みたいな。だからコレは勝手な想像なんですが、宮崎氏はもう一度、王道ジブリ作品への回帰(総まとめ!)をやってくるんじゃないかな~~??と期待してたりします。アビイ・ロードみたいなですね笑
本題とずれましてm(_ _)m
Kazu Annさん、コメありがとうございます。ご共感もの凄く嬉しいです~!ちなみに、、裏公式パンフと言われている笑、SWITCH9月号掲載のP鈴木敏夫氏と池澤氏の対談を後日読みましたところ、私達のような受け止め方が制作意図とあながち外れていないことが分かりました。
本当に幅広い世代にファンを抱えるジブリですから、本作の賛否両論はある意味、宮崎氏の功績の現れなんでしょうね!
五感をフルに…そうでした。
経験の少なさに戸惑いもて余す感情を記憶の奥から呼び戻し眞人と重ねあわせる昔の自分がそこに居ました。俯瞰でたどるその時間は流れ込むような感覚の渦となり染みわたるようでした。そして今の私には人間という不完全な生き物への愛おしさや命や出会いの奇跡に対する感謝に似た温かみをもたらしました。
こめられた魂の仕掛けが受け手のその時々にあわせ必要なことを感じさせるのかも…ですね。
「本作では、視覚(風景)、音、あり得ないほど素晴らしい。その素晴らしさが私自身の心を現地に引き込んでいく。そして 匂い、香り、板張りの床から足裏に伝わる質感、手触りひとつひとつ、また味覚に至るまで」
そうそう、この映画理屈抜きに素晴らしいですよね。全く同感です!
意味づけの難しさからか、それら素晴らしさを堪能出来ない方が、どうやらかなり多いのがとても残念です。