「見る者を選ぶ映画だが名作」君たちはどう生きるか Akkiさんの映画レビュー(感想・評価)
見る者を選ぶ映画だが名作
端的に言うと見る者を選ぶ映画。
映画に単純なエンタメだけを求める人には向かないかも知れない。また子供向きでもない。
壮大なファンタジーの世界観で魅了するナウシカやラピュタ、可愛い子供向けのキャラで魅了するトトロやポニョとは全く異なる。
勿論そう言った要素もない訳ではないのだが、例えば、クリストファー・ノーランやデヴィッド・リンチの作風が面白いと思うタイプの人には名作だと思う。個人的にはツボの作品であった。
つまり、時間軸を行ったり来たりできる設定、抽象的なセリフ・描写を鑑賞中に自分の脳内で組み立てて1つのストーリーやイメージを作り出せる人にはこの上なく面白い作品で、何回も見返したくなる作品なのだと思う。
物語の展開やメタファーの散りばめ方は、千と千尋やもののけ姫に最も近いものを感じるが、あちらは本作よりもよりストレートな展開の作品である。
ここからは、本作のテーマやストーリーについての個人的な解釈ですが、ずばり本作のテーマは文明対自然というジブリ作品の一貫したテーマに加え、輪廻転生、死生観を感じさせる作品であった。文明という言葉の中には戦争や争いと言ったことを当然含む。
まず、文明対自然についてだが自然保護のテーマ、自然に生命が宿るアニミズム的な発想はジブリ作品が一貫して描いてきたものだ。トトロあたり迄は単純な自然保護であったのに対し、複雑性を帯びてきた最初の作品がもののけ姫で、あの作品では最後にアシタカはタタラ場でサンは森で別々に生活するが共に生きようということになった。初めて文明の存在を肯定しないまでも認可し共生するとした作品であった。
本作では、石が文明の象徴(人類の象徴)で 、木が自然の象徴として描かれています。石が悪意があり、木には無いと話していた。そして、最後は悪意のない石を並べることも拒否し、自分の世界へ戻るという結末となっている。
また、文明の象徴としては、戦争や争いが含まれる。冒頭太平洋戦争下を舞台とした場面と母の死から始まる点や大叔父の争いのない世界を作れというセリフからも表現されている。
次に輪廻転生や死生観という点では、天国と地獄の行ききの表現や、ワラワラが人間として生まれる過程などに加え、メタファーという点で、実母の妹であり継母である夏子との仲を取り持ち眞人を救ったのが"火"術を操るヒミであり"火"事で死亡した若き日の実母であったことにも表現されている。
このメタファーの手法や救出劇の展開は、千尋を救ったハクが擬人化した過去にも千尋を救った川であった千と千尋に類似している。
本作が素晴らしいと感じるのは、千と千尋同様に、霊が愛をもって助けてくれたこと、眞人や夏子に対する愛、母の愛を感じるので感動するのではないかと思う。
そして、最後の場面、眞人を産む為に火事で死ぬとわかっていながら、ヒミは元の世界に戻っていくのである。
そして、眞人の母が大きくなった眞人に向け残した本が吉野源三郎の「君たちはどう生きるか」だったのであり、この本が夏子の捜索や塔と塔の中の時空世界に誘い、名前の通りまっすぐに生きることを教えてくれるのである。
本作は要約するとそういう作品である。