「私たちは、なぜ生まれ、どう生きるのか、━忘れていた魂の記憶を思い出させる、真の天才による世界で永遠に語り継がれる偉作」君たちはどう生きるか Akiraさんの映画レビュー(感想・評価)
私たちは、なぜ生まれ、どう生きるのか、━忘れていた魂の記憶を思い出させる、真の天才による世界で永遠に語り継がれる偉作
観終わって、子供たちの未来のために、自分にできることを精一杯やろう、と思う━。それが、宮崎監督からの問い、「君たちはどう生きるのか」に対する答えである。本作は、表面的な感想、評論、批評を、一切受けつけない。語る者は、監督からの問いに対する、自分なりの答えを見出し、表現してから語るべき作品だと思った。
これまでの宮崎作品のエッセンスが凝縮された集大成であるばかりでなく、今まであまり明確にされてこなかった重要なコンセプトが表現されている。それは、時空を超えたいのちのつながり(縁生)であり、生まれ変わり(誕生と死の循環・輪廻転生)であり、異次元世界(あの世・常世)と現実世界(この世・現世)が、力動的に共振・協働している関係の世界観である。
「君たちは『なぜ』生まれてくるのか」━。この問いに対する答えがあって、初めて、「『どう』生きるのか」、が出てくる。本作は、なぜ、悲惨なこの世に、それでも君は、自ら願って生まれてくるのか、が問われる(あの世は、ある意味、安定しているにもかかわらず)。その答えもまた、宮崎監督は描いている。本作は、私たちが忘れてしまった、なぜ生まれてきたのか、どう生きるのかを思い出させてくれる━いや、観た者が、それを思い出してくれることを願って生み出された作品だと言っても過言ではないのかもしれない。
プラトンによれば、私たちの魂は、生まれてくる前、レイテの泉の水を飲み、すべての記憶(あの世の記憶、過去世の体験と智慧)を忘却して生まれてくるという。しかし、この世にあるイデア(真実・永遠の真理)のかけらに出会うと、魂が震え(感動と呼ぶ)、求めるようになり、忘れていた記憶を少しずつ思い出す(想起する)ようになる━。本作の主人公もまた、忘れた魂の記憶を思い出す、試練の旅に出る。
なぜ、悪は存在するのか。悪の必然と意味もまた、語られる。あらゆるいのちとの共生、自然界の見えるいのちも、見えない異界のいのちも、すべてつながり生かされ、それぞれの役割を果たしている。無駄なもの、不必要なものなど何一つなく、秘められたいのちの可能性を開花し、謳歌し、すべてがダイナミックに調和し共生する世界のあり様を、宮崎監督の世界観とすれば、それは未来からやってきたヴィジョンであり、古代からあった永遠の真理であろう。だから、本作は、これから永く、世界で観られ、語り継がれるだろう。その必然と意味、力が、本作にはある。
宮崎駿は、日本の自然と文化に育まれた、間違いなく真の天才━genius:ダイモン・守護神と協働する「聖なる狂気」の人━である。