「感傷を失った散文詩のようなもの」君たちはどう生きるか 猫シャチさんの映画レビュー(感想・評価)
感傷を失った散文詩のようなもの
自分の頭の中にある思想やアイディアというものは、
そのまま世に出しても、そうそう他人には受け入れられないですよね。
だから味付けをして、食べやすくする。
その過程で言いたかった事の本質は変容してしまったりするのですが、
それに気づかない振りをして、他人に見せるための「加工」を施すわけです。
自分で文章、詩、映像を作る人なら、お分かりいただける感覚かと思います。
この映画は、そういった義務感から半ば解放されたものに思えます。
今描きたいもの、表現したい素材だけで作られたコラージュのようなものでしょう
功成り名遂げた者だけに許される「贅沢」であり、ある種の「おままごと」です。
人は誰かのために生きている。人は社会とは無縁ではない。
庵野監督が「自分が世の中に役に立つのはこれしかないから」と言っていたように
「スタジオの皆を食わせなければ」「次を作るために当てなければ」
こういった制約は時としてクリエイターの作りたいものを歪めてしまうけれど、
その葛藤と矛盾の中でもがき苦しみながら産み出したものだから、価値があるし、人の心を打つのだとおもいます。
優秀なアニメーターを引き抜いて、何年も従事させて、出てきたものが「自分にすらよくわかってない何か」だという事実に、「老境」の絶望を私は見ました。
メタ的に見れば、これほど怖いものはありません。
ホラー映画だと考えれば、正しく一級品と言えるでしょう。
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猫シャチさんのコメント
2023年8月12日
>かせさんさん
元々お話を決めず、ストーリーボードから映画を作っていく宮崎監督ですし、あり得るかもしれませんね。高畑監督の「かぐや姫の物語」のほうがまだしも筋の通った映画に感じられる・・そんな日が来るとは思いませんでした。