「宮崎版エヴァなのだろう」君たちはどう生きるか ぺこぽんさんの映画レビュー(感想・評価)
宮崎版エヴァなのだろう
引退かと思われた宮崎駿監督の新作が見られるということで、しかし全く宣伝が無かったということと、タイトルの地味さが気になってあまり見に行く気はなかったのだけど時間があったので公開日に見た。
前半と後半でまったく舞台が異なっていて、その展開にぽかんとしてしまうところがある。
もっと今生世界と地底世界のつながりを感じられる描き方があるとよかったんじゃないだろうか。
物語の骨格は、大叔父さんがアオサギを使って少年を地底世界にスカウトする話、
少年の母親の死と、疎開先と新しい母親とやがて産まれる兄弟を受け入れられずに悩む話、
これを時代世代を超越した不思議な地底世界を絡めて見せるというもの。
最終的に少年はすべて現状を受け入れることで終わる。
大枠として少年の内面の話になっているので、これはエヴァなのかなと思う。
風立ちぬでは庵野が声優をやっていたし、宮崎監督もそれっぽいのを作りたくなったのかもしれない。
少年の父は聡明で活発で仕事もできて、女にモテる。
死んだ妻の妹を早速孕ませてしまうのだからとんでもないエロ親父である。
真面目な少年はそんな父を苦手に思うのは当然で、新しい母親にもどうにも馴染めない。
そりゃあそうなんだが、地底世界に行ってから特に脈絡もなくこの新しい母を受け入れてしまう。この辺の心理がよく描かれていないように思えた。豹変したように見えた。
そういえば地底世界は崩壊したようだが、だからと言って世界にさしたる影響は無かったように見えた。ただの夢の世界だったのだろうか。消えても良いものだったのか。
全体として、物語を構築するための大事な部分がいくらか抜け落ちているような印象をうけた。
もっと丁寧に作ってくれると良かったと思ってしまう。
なお、ジブリ飯の描写については大いに不満。
今生世界では砂糖に群がる婆しかないし、地底ではシチューが冷めてしまうし。
ただ食パンを無表情にかじるだけ。
特にシチューが冷めるシーンは本当にがっかりした。
どうでもいいから早く飯食いに戻れよって思っていた。
監督が歳を取ってしまって食への執着が薄くなってしまったのだとしたら残念でならない。
追記:
NHKの特集を見たが、大叔父は高畑監督で、アオサギは鈴木プロデューサーなんだそうだ。
なるほどそういうことならこの映画タイトルも納得がいく。
この二人に大いに振り回された自身を回顧した映画というわけだ。
そのうえでお前たちもこんな濃密な人生を送れているかと問うているんだな。
ただやっぱりそのような背景を知らなくても楽しめる作品として作りこんであれば尚よかったと思う。