「傑作!」君たちはどう生きるか Nさんの映画レビュー(感想・評価)
傑作!
最高でした。少し長文になってしまいますが、感想と解説、、というほどのものでもないですがそれを少し吐き出させてもらおうと思います。
まず、第一に本当に面白かった。ストーリーが全く分からなくても美しく躍動感のある映像が私たちを楽しませてくれる。前半は好奇心を煽り、「もっとよく見せろ!」と叫びたくなります。それが中盤になると一変、何もかもを曝け出した素晴らしい冒険の数々が押し寄せてくる。説教くささは殆どありません。私たちに一瞬の休む隙も与えず、まるで急上昇と急降下を繰り返すジェットコースターのように楽しませてくれます。
そして第二に本作の前半から中盤に渡る本筋でもある眞人と母親について。この映画の前半から中盤における本筋は簡単に言ってしまえば主人公の眞人が実の母の死を受容し供養して、夏子お母さんの愛情を受け止めるという話です。夏子お母さんは最初に会った時から主人公に一心に愛情を注いでいます。眞人のことを愛する姉の子供で自分の子供とも捉えている。これは前半の夏子を注意深く観ていれば確かなことで寝顔を愛おしそうに見つめていたり(眞人を憎んでいたり嫉妬していたら寝顔を見てあんなに愛おしそうな表情はできない)、わざわざ食事を作ってあげている(悪阻で寝込んだ後のご飯が美味しくないのは夏子が今まではご飯を作ってくれていたから、父親を好いているだけの女であれば眞人と同じ食事を共有したくないので二人で外で食事をするはず)。その後塔の中に入りますが最初、塔に入った第一の目的は母親が本当に死んでいることを確かめるためでした。しかし、母親がどろどろに溶ける姿を見て母親が死んだという事実を受け止めます。そこからは目的がお父さんの好きな人(夏子お母さん)を探すことに変わりますが依然として実の母親に対する気持ちは残っている。しかし、ヒミに殺されたペリカンと話し、ペリカンを土に埋めることで母親の供養をして母の死を乗り越えます。その後、ヒミに連れられて夏子お母さんと会いますが、夏子は眞人に「大嫌い」と言います。しかし眞人は髪を振り乱し、鬼のような形相を曝け出した本心でも夏子が眞人のことを大切に思っているということに気づき夏子を母として受け入れます。
最後に本作の設定や中盤から後半に渡る本筋である宮崎駿と宮崎吾朗について。まず、この大叔父様というのは宮崎駿を、眞人は宮崎駿の息子、宮崎吾朗を、そしてこの塔はスタジオジブリを暗喩しています。大叔父様は塔を作りその中で自分の創作世界を必死に守っていますがこれに限界を感じ、血縁である次世代の有望な若者である眞人にこれを継いでくれと頼みます。しかし無情にもこれを断られ自分の創作世界の核である積み木をインコの王様(スタジオジブリの人間)に壊されます。大叔父様にとっては塔の中こそが世界の全てで「積み木が崩れると世界が壊れる」なんて言いますがそんなことは全くなくただの脅しに過ぎなかった。塔を出ると眞人が隠喩するものは一転、我々観客に移り変わり、宮崎駿とともに崩れ去った塔からはたくさんのスタジオジブリの人間が飛び出して私たちに糞を引っ掛けて多大な迷惑をかけてきます。それでも大衆はインコ(スタジオジブリの人たちの作品)を見て綺麗ねという。しかも最後には宮崎駿が私達に積み木を渡してきて「そのうち俺を忘れることはわかってる、しかしどうか俺のこと忘れないでくれ」と言ってくる。誠に勝手で滑稽で面白い。
最後の本筋がわからないと話が終わったのにダラダラと続いているように感じるかもしれませんが、実際には終盤は宮崎駿の悪あがきが見れて非常に痛快です。