「君たちはどう考察するか」君たちはどう生きるか ニコさんの映画レビュー(感想・評価)
君たちはどう考察するか
タイトルのもとになった原作小説は未読だったが、スタジオジブリが「まっさらな状態で映画を観てほしい」と言うので、言われた通りの状態で鑑賞した。
主人公の眞人(まひと)は第二次大戦中に母を亡くし、疎開先で父の再婚相手であり母方の叔母でもある身重のなつ子と暮らすことになる。転校先でいじめられ、義母の存在も受け入れられず、母が亡くなる時の悲しい記憶とともに鬱屈とした思いを抱えて暮らす眞人だが、ある日姿を消した義母を探すうち、怪しいアオサギに誘われて敷地内の謎の洋館から異世界へと旅をすることになる。
大人の目でこのタイトルだけ見ると説教臭そうに見えるが、そんな傾向はほとんどなかった。端的に言えば少年が未知の経験をする中で成長し、自分の中に生きる実母の愛を確認して、義母を家族として受容するまでの心の彷徨と義母側の葛藤をファンタジーで表現したものだと、個人的には解釈した。
ファンタジーのシークエンスに入るまでが結構長い。映像や想像上のキャラクターは、宮崎駿が過去に関わった作品のセルフオマージュがふんだんに詰め込まれているように見えた。おばあちゃんたちや疎開先の建築物の描写、ワラワラ、遠景で眞人を探す父親が銭形警部に見えたりもした(笑)。子供が異世界でなんやかんや揉まれて成長するという話の大筋自体も既視感がある。
異世界でのステージがどんどん転換してゆくのだが、説明はほぼない。大おじの洋館の床に沈んで、ペリカンがいっぱい出てきて、船を漕ぐお姉さんが出てきて、なんかインコがいっぱい出てきて、ここはインコの国でどうのこうの、となってきたあたりで、設定の意味を考えるのをやめた。
この説明のなさ、考察好きな人にはたまらないのかもしれない。私も考察を楽しいと思うことはあるが、それも本筋のストーリーの面白さと、情報量が適切であるかどうかによる。物語がたまらなく面白ければ、意味深な情報の洪水も考えてみようというエネルギーが湧いてくる。
本作は映像的には十分楽しいのだが、インコたちと終盤に登場した大おじとの関係などを見る頃には、お腹にいっぱい溜まった未消化の謎情報を消化するモチベーションがなくなっていた。オマージュ要素が先行して、大きく驚かされるような展開のダイナミックさや新しさがほぼなかったせいだろうか。
洋館の地下以降はあの世で、なつ子はつわりも重くて出産にあたり実は生死の境をさまよっていたのであの異世界の奥の方にいて、わだかまりのあったなつ子と眞人の関係を亡くなった実母=ヒミが取り持ったのかな、程度のことは考えた(ヒミの立ち回りを見てちょっと「TENET」のニールを思い出した。全然違うんだろうけど)。
あと、後継指名しようとした大おじは宮崎駿自身だったりして……とか。
本作の事前プロモーションなしもびっくりしたが(「THE FIRST SLAM DUNK」はキャラ設定などの予備知識は原作から得られた)、前売券もなし(これはディズニーもそうだが)、パンフレットに至ってはなんと後日発売という、ビッグネームだから出来るある意味超強気というか、何か別の事情や思惑があるのかよくわからないアプローチ(宮崎氏は前宣伝しないで大丈夫かと心配していたというのを記事で読んで笑った)。興行的には、初動でどれだけ稼げるかにかかっている気がする。評価が広がったら、人を選ぶ内容なのでちょっと厳しいか。
おかげで、本当にまっさらな状態でスクリーンの前に座るというなかなか貴重な体験を出来たことはよかった。
ちゃあさん、コメントありがとうございます。
映画批評家前田有一氏のnoteを読みましたが、プロモーション一切なしなのは金銭的事情に迫られてという面もあるのだとか(前田氏の推測ですが)。
CMやメディアでの宣伝、公式サイトや予告編の制作って当たり前ですが相当お金がかかるみたいです。
ここを省いて損益分岐点を下げて、あとはネームバリューでどこまで頑張れるか、でしょうか。
映像的に見どころもある作品ですし、琴線に触れるものを感じた人は幸運なことに相性がよかったのだと思います。私はアンラッキーでした。
正直、制作費回収できるのか?と心配になりました。絶賛コメント(何回も泣いた等)を見ると、どこをどう感じたのか詳しく聞きたくなります。
個人的には久石譲さんと米津玄師さんの名前がエンドロールで並んでいたのが一番の感動ポイントでした。
ニコさん
コメントありがとうございます。
この監督の作品だから、無条件に高い点を付ける人、この監督のアニメ作品に低い点を付けるのがおかしいと攻撃的なコメントを書く人、色々ですよね。
教養が無いと良さがわからない、なんて言われると、レビューして良いのは過去作を全て観て、他作品にも関わってて、みたいな人だけだ、と言われてるみたいで悲しくなります。
引き続きよろしくお願いします。