「キミノヒトミニコイシテル」しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 とべとべ手巻き寿司 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
キミノヒトミニコイシテル
映画クレヨンしんちゃん通算31作目になるが、通常のシリーズには含まれない“特別版”。
節目の30作を経て、“しん次元”へ! 初の3DCG。
ネコ型ロボットは3DCGになったけど、嵐を呼ぶ園児の3DCG。さらに題材が“超能力”と“手巻き寿司”って…。想像出来ないゾ~。
ほっぺがぷにゅぷにゅの質感たっぷりと言うより、2D手書きアニメーションを立体化したような映像。
それがまたしんのすけの作風や世界観を大きく逸脱する事なく。最初は違和感あったが、見ていく内に。
勿論3DCGを活かした映像や演出も。
冒頭、しんのすけとみさえの追いかけっこ。3DCGならではのスピーディーさもさることながら、3DCGになった事で倍増しになったみさえのデカケツ。確かに“ケツデカオババ”だ…。
超能力発動は手書きアニメーションでは出せない臨場感やユニークさ。
クライマックスはまるで怪獣映画のような迫力とスケール。
しんのすけにとって3DCGは楽しいおもちゃの一つのよう。
しかし、他にこれと言って3DCGを活かした新味があまり感じられず。
初3DCGに挑戦した意欲は買うが、躍動感やテンポやギャグも従来の手書きアニメーションの方が上手だった気がする。
これは監督のセンスの問題かな…。いつものアニメに携わった監督ではなく、実写畑から起用された大根仁。
『モテキ』『バクマン。』『SUNNY』など冴えた良作あるが、ちと今回その冴えを発揮出来ず。
唯一センスを感じたのは、超能力を高める奥の手として、深キョンのあの曲のチョイス。確かに不思議と超能力が高まっていきそうな(笑)、このチョイスにはウケたね。
時々ムラはあるが、大人をも魅せる映画しんのすけ。
せっかくの3DCGの特別感に乏しかったので、超能力×手巻き寿司のユニーク題材の話に期待だったのだが…、
あ、脚本も大根だった…。そういやこの人が以前脚本を手掛けたアニメ映画『打ち上げ花火』もビミョーだった…。
かの預言者ノストラダムス…の隣の町に住んでいた預言者ヌスットラダマス。
その預言は…
20と23が並ぶ年、天から二つの光が降るであろう。
一つは黒い光、一つは白い光。
黒い光は強大な力を放ち、世界はごっつ大変なことになるんやでぇ…。
ヌスットラダマスというネーミング。何故に関西弁…?
メチャ胡散臭いが、ホンマやった…!
天から降り注いだ二つの光。それらは当たってはならない人物に当たってしまった…!
白い光はしんのすけに命中。
おシリが熱いゾ…!
超能力が使えるように…! でも、チョコビやものを浮遊させてキャッキャッ遊んだり、運動会で活躍したり、まだまだそんなもん。
野原家手巻き寿司夕食中、突然上がり込んできた初老の男と若い女性。国際エスパー調整委員会というまたまた胡散臭い肩書きの池袋教授と超能力者でもあるネギコ。
彼ら曰く、真に超能力が覚醒すれば、黒い光の力に唯一対抗出来、世界を救う存在に…。
その黒い光は…?
派遣でティッシュ配りのバイト中の青年・非理谷。
周りから見下され、いちゃもん付けられ…。
唯一の生き甲斐だった推しのアイドルの結婚を知ってショック…。
さらには近くで起きた事件の犯人にも間違えられ、警察から追われ…。
とことんついてない。どん底。
世の中に対してあるのは怒りや憎しみだけ。
そんな人物に黒い光の力が備わったら…?
この超能力を使って、自分を見下した世の中に復讐してやる…!
超能力覚醒や発動は『AKIRA』イメージだろう。
また個人的には、世の中に対して不満を抱く男が突然強大なパワーを手に入れ…というのが藤子・F・不二雄のSF短編の一つ『ウルトラ・スーパー・デラックスマン』を彷彿。
そんな非理谷の暴走に、しんのすけが立ち向かう。サイキックバトル!…というより、しんのすけはヘンタイなお兄さんと超能力で遊んでいる感じ。
今回のキーキャラである非理谷。
夢も希望もナシ。世の中はクソ。社会の底辺。
似たような境遇や思いの人も多いのでは…?
そんな彼を通じて、世の中の傲慢や不条理を訴える。
しかしこれまでのような笑いの中に風刺たっぷりは今一つ効いておらず。
原因は非理谷のキャラであろう。
かなりひねくれて屈折していて被害者意識。あまり共感や同情を感じられない。
非理谷がふたば幼稚園の敷地に入り込んで、よしなが先生や風間くんたちを人質に立て籠ったシーンはゾッとした。現実にも起こりうる事件だが、いいんかい、『クレヨンしんちゃん』でこんな怖い事描いて…?
非理谷が今のような性格になった理由。暗い過去。それが明かされるクライマックスの重要シーン。
両親の離婚。同級生からのいじめ。殴られ、蹴られ…。
幼稚園籠城でも超能力で風間くんらを浮遊させ壁に叩き付けるなど、暴力描写がちと気になった。
もうこの時点で異常者であり犯罪者であり、これまでの『クレヨンしんちゃん』のヴィランでは明らかに異質。
ハイグレ魔王とかナイスキャラだった。『オトナ帝国の逆襲』のケンとチャコも現代世の中にうんざりしているが、哀愁あった。
そうか、非理谷が先兵で、彼を利用しようとする真のヴィランが現れるんだな、きっと。
ヌスットラダマス二世登場。人の負の感情を利用し、世界征服を目論む。“令和てんぷく団”!
非理谷、危うし…!
が、パワーが増大し、非理谷は巨大化。さらに、モンスター化…!
噛ませ犬なヌスットラダマス二世。
結局は何の捻りもなく非理谷がヴィランで、巨大化&モンスター化が安直…。
宇宙から突然やって来た未知なるものや平凡な話がビミョーだった『襲来!!宇宙人シリリ』を彷彿。
怪獣映画風もユニークだった『爆発!温泉わくわく大決戦』に及ばず、これまたビミョーだった『3分ポッキリ』とどっこい。
超能力ともう一つの題材の手巻き寿司。
これ、家族を象徴している。
野原一家では団らん。非理谷の過去では、家族の崩壊。
その対比が印象的。同じ手巻き寿司でも、片や幸せや楽しさ、片や悲しく苦い思い出…。
終盤、モンスター非理谷に飲み込まれてしまったしんのすけ。
その身体の中で、幼い頃の非理谷=充と出会う。
孤独な充に手を差し伸ばすしんのすけ。
いじめられる充を庇う。オラの“仲間”だゾ!
これがちょっと引っ掛かった。しんのすけなら、“お友達”や“おシリ合い”の方がらしいのでは…?
愚かな事をしてしまった者に手を差し伸べるが、お友達にはなれない。案外、シビアなメッセージだったのかも…?
松坂桃李は声だけでも怪演。
それ以上に、空気階段が上手くてびっくり!
曲げられるのはスプーンだけじゃないわ。多分“アレ”を曲げた今回ちとSな禰豆子。
今回のひろしの名言は…
自分を幸せにする事より、誰かを幸せにしようと思え。誰かを幸せにすれば、自分も幸せになれるんだ。
また、しんのすけが書いた“将来の夢”。ただの真っ白な画用紙…。
真っ白なご飯を書いたもので、食べるのに困らない大人になる。
これ、実はとっても深いかも…?
悪くはなかったが、まあまあだったかな…。
話的には近年の『花の天カス学園』や『ラクガキングダム』や『失われたひろし』や『ユメミーワールド』や『ロボとーちゃん』の方が面白かった。
初なら3DCGの特別版の今回より、今夏の通常新作の“初恐竜”の方がずっと気になるゾ!