「考察を試みます」しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 とべとべ手巻き寿司 ぽんぽこさんの映画レビュー(感想・評価)
考察を試みます
この作品の感想を見ているとなんとなく誤解が多いように思えるので作品の意図について自分なりの解釈での説明を試みます。以後映画視聴済みの前提で記載します。
この作品のテーマを一言でいえば「仲間とともに厳しい現実に立ち向かえ」です。
本作の悪役である充くんですが、彼は友人や彼女もおらず、アルバイトで日銭を稼ぎ、日本や自分自身の未来に絶望する若者です。そんな彼が空から降ってきた光で悪の力が増幅され、復讐行為を始めます。
少し話が飛びますが、映画を観た方ならご存じのように、最終的に充くんはしんちゃんと友達になることで救われます。当然ながら、充くんの社会的な立場や日本の未来については何も問題が解決していないにも関わらず、悪の力が失われるのです。
つまり、監督は年収のような社会的なステータスや日本の経済成長・高齢化などは重要な問題ではなく、信頼できる仲間や家族がいないことこそが問題であると主張しているのです。
充くんの両親は仕事で帰りが遅く、充くんが寂しい時に側に入れなかった描写が充くんの過去の中で重要なイベントとして描かれています。また、いじめの描写も同様に充くんの中で見ることになりますが、重要なことはいじめられていたということではなく、いじめられた際に助けてくれる人がいなかったことです。
そのためしんちゃんが充くんを仲間と呼んで一緒に戦ってくれたことで充くんの抱えていた問題が解決します。当然、充くんの後日談は描かれませんが、仲間がいればそこは重要ではないのです。充くんにはアイドルのような存在でなく、困ったときに助けてくれるような仲間が必要だったのです。
さて、ネット上でしばしばひろし達が充くんに「頑張れ」という最後のシーンに対する不満が見られます。大抵の意見は所謂「勝ち組」のひろしが充くんに説教をしていると捉えられていますが、あまり正確ではありません。
まず、今回の作品のテーマを考えれば最後に充くんにかける言葉は絶対に「頑張れ」ではないことがわかります。充くんが悪の道にそれてしまったのは仲間がいないことが問題であり、断じて充くんの努力不足ではありません。たとえひろしでも仲間がいなければ充くんと同じようなことになっていたと言えるでしょう。
つまり充くんとしんちゃんが仲間になったラストシーンでは「頑張れ」というような問題を充くん一人の責任にする他人事の発言ではなく、日本の未来は厳しいかもしれないけど一緒に「頑張ろう」が正しい言葉であり、充くんに声をかけるならこれが正解です。しんちゃんと充くんは仲間なのですから「頑張れ」とは言わないでしょう。
ではなぜ「頑張れ」なのかというと、これは充くんへのメッセージではなく観ている人たちへのメッセージだからでしょう。ここからは私見が濃くなりますが、監督は視聴者の一部ないし多数は適切な信頼関係・仲間関係を醸成できていないと判断して、未来が暗いと感じるならば重要なことは年収や経済ではなく仲間であることを説いた上で、視聴者に「頑張れ」とメッセージを送るのです。頑張る内容は仲間づくりであり、明るくない未来を生き抜くことです。しかし、仲間とともに前を向けばこんな世界でもやっていけると監督は主張しているのでしょう。しんちゃんと充くんのように。
この作品でのメッセージには一貫性があり、キーワードは仲間です。年収や家庭をもつという一般的に幸福とみなされる事柄は重要視されていません(家族は仲間とも見なせますが、充くんの家庭が幸せでなかったように家族がいることが重要ではないのです)。日本の未来は暗いかもしれませんし、きっと苦しいことも多いでしょう。その中で「仲間とともに厳しい現実に立ち向かえ」と監督は伝えています。そうすることが幸せになれる方法なのかもしれません。