「言語化できない高校生特有の感情を映像化している」きみの色 ゆうひさんの映画レビュー(感想・評価)
言語化できない高校生特有の感情を映像化している
とても感動した。高校時代、悩みや葛藤やコンプレックスに苦しんだ人ほど面白く感じられると思う。
高校時代、他人や今の自分からしたらどうでもいい悩みが、世界平和と同じレベルで壮大だと思っていた。そんな昔を思い出させてくれる作品だと思った。
きみが高校をやめた理由とか、ルイの家庭の事情について明確に描かれていないのがとてもよい。上から目線だが、製作陣は「分かっている」。高校時代の悩みなんて、何か一つの明確なタネがあるわけではない。一つ一つ小さな悩みがあって、それを高校生の繊細な感情が肥大化させているのだ。なので、表面上思考に表れる悩みは、なんとなく学校が嫌いで、なんとなく親が嫌いで、なんとなく進路が不安で、というもの。だからなんとなく高校をサボって、高校をやめて、ルールを破って、勉強じゃないことにチャレンジしてみたりする。そこに明確な理由は存在しない。全部なんとなくだ。だから、親や友人に、なんで悩んでるの?と聞かれても言語化できない。作品で明確な理由の描写を避けたのは、等身大の高校生を表していてとてもいい。
また、高校生特有の勢いがなんとも心地が良い。勢いで、バンド組んじゃえ!音楽作っちゃえ!将来どうなるか分かんないけど、今を生きる!退学した学校でライブ!な感じが最高。高校時代を思い出して、そうだ、そうだったよなととても懐かしくなった。複雑な悩み(高校生レベルだけど)と、勢いで色々周りを顧みずに色々やっちゃう高校生のアホみたいな勢いのよさ。一見矛盾した2つの特徴を持った高校生の生態をよく表している。
また、こうやって高校時代の感情を思い起こさせるだけではなく、そこにキリスト教的な過去との向き合い方を教えてくれるのもとてもいい。
この作品のテーマ、色はとても面白い。普通の人は淡い色だったり、色んな色が混ざった色をしている。しかし、きみとルイ、日吉子は明確な、わかりやすい色を持っている。これは、彼らが明確な自我を持っていて、周りと合わせない(合わせられない)からこんな色をしている。また、トツ子自身の色が見えないのは、自分が何者なのかわからない高校生特有の感情の表現で、終盤自分の色がわかったのは、トツ子自身の成長を描写しているのかなと思う。
なにかわかりやすい事件が起こったりする映画ではないが、こういう繊細な感情を描写する映画はやっぱりいい。短い時間しかない映画だからこそ、繊細で脆い高校生の感情を描けている。これが1クールアニメだったらこうはいかないだろう。ただ、高校時代の思い出に、こういうなんとなくな悩み等がなかった人には、もしかしたら響かないのかも。
ただ、エンディングはそうはならんやろ。