「しみじみと、良い映画」きみの色 KNG-UDNKさんの映画レビュー(感想・評価)
しみじみと、良い映画
表題の通り、見ている途中から、「良い映画だなあ……」と感じられるような、そんな映画だった。
大泣きするようなものでもなく、感情をものすごく揺さぶられるようなものでもないのだけど、良い映画だというのが、じんわりとしみてくるような、そんな映画。
シーンの一つ一つが本当に繊細で、参加している人が全員、丁寧に作業をしているような、腕の良い職人の仕事を淡々と見せてもらい、「ほぁー」と感心するような、そんな映画だ。
山田監督の作品としては、「けいおん!」以来のバンドものだけど、「けいおん!」とはまた違った、ろうそくのような温かさのある映画だった。
個人的にどうしても脚本に目が行ってしまうのだけれど、きみの「順番をいろいろと間違えちゃった」という台詞は、高校生という年代もそうだけど、その後の人生でも感じさせられる葛藤を、見事に言い表した言葉だと思う。そういう言葉がたくさん、ごく自然に、台詞に組み込まれている。
バンドのシーンも、音楽の順番がとてもよく考えられていたなと思う。最初にアップテンポだけど少し重めの歌詞の曲から始まり、葛藤を吐き出すような2曲目につながり、葛藤を吐き出したことでスカッと昇華されたような3曲目で、バンドを中心に全体をひとつにまとめていくのがとても素晴らしかった。「水金地火木土天アーメン!」は、あれがちゃんとした良い曲になっていくところがすごかったな。
その後のシーンでどうするのだろうと思っていたら、トツ子のダンスシーンが挟まって、大学に進学するルイ君をふたりが見送るシーンにつながる。あのシーンの「頑張れー!」は、良かったな。
エンドロールの後で、それぞれの未来を感じさせるようなシーンが一瞬入るところも含めて、しみじみと、良い映画だったなと感じる。
星がひとつ足りないのは、主役どころを何で声優さんにしないのかな、というところ。
かなりオーディションをしっかりやって選んでいるので、填まってはいるような気はするけど、それでもやっぱり本職の方と比較すると違和感を感じてしまう。この作品は、そういう違和感は最初だけで、話が進んで行くにつれて慣れていったけど。最初に感じる違和感がどうにも気になってしまう。
アニメ映画に声優以外の人を選ぶのは、いろんな理由があるんだろうけど、すでにマーケティング的な理由で俳優を起用する効果はほぼなくなっているのだから(いまさらそんな理由で、「普段アニメを見ない人でも見て大丈夫な映画です!」という宣伝効果などほぼないだろう)、アニメ映画なんだから新人の声優さんにもチャンスをあげれば良いのにな、と思う。脇に堅い声優を当ててるんだからなおさらそう思う。