「私的、この映画を優れたものにしている点とは?」きみの色 komagire23さんの映画レビュー(感想・評価)
私的、この映画を優れたものにしている点とは?
(完全ネタバレなので必ず鑑賞後にお読み下さい!)
結論から言うと今作を非常に面白く観ました!
この映画『きみの色』は、キリスト教系の女子高に通う(共感覚的に)人の色が見える主人公・日暮トツ子(声:鈴川紗由さん)が、作永きみ(声:髙石あかりさん)と影平ルイ(声:木戸大聖さん)に出会って、音楽を通して心を通わせるストーリーです。
この作品は、主人公・日暮トツ子も通っているキリスト教系の女子高を退学していることを祖母に打ち明けられない作永きみや、医者の家を継ぐことを期待されていますが音楽の道に本当は行きたいと思っている影平ルイの、それぞれの孤独が根底に流れています。
私がこの映画『きみの色』が優れていると思われたのが、作永きみや影平ルイの孤独を、意識しないまま主人公・日暮トツ子が救っていると感じた所でした。
象徴的なのが、学校に来なくなったどこかあこがれの存在であった作永きみを、日暮トツ子が街中で探していて、その時に猫の後ろに着いて行って、路地の階段を上がった先にある古書店でアルバイトしている作永きみを見つける場面です。
この場面は、奥まった場所にいる孤独な作永きみを、実は意識しないまま日暮トツ子が見つけ出し、作永きみの孤独の本質に光を当てている象徴的な描写になっていると思われました。
そして孤独な作永きみを救っていることを、トツ子自身は全く気がついていないところに、この映画の素晴らしさがあったように思われます。
主人公・日暮トツ子の存在は、その雰囲気や作った音楽や(学校の廊下で踊るバレエなどの)躍動で、影平ルイなどの孤独も意識せずに救っていたと思われます。
本当であれば、日暮トツ子の(共感覚的に)人の色が見える能力は、世界を救う力と大きく描くことも出来たかもしれません。
しかしそうではなく、あくまで日暮トツ子の人の色が見える能力はさりげなく描かれているのも好感を持ちました。
日暮トツ子は、例えばなぜ幼少期のバレエの風景にこだわっているのかなど、自身の心に対しては曖昧で明確な考えは持っていません。
また映画の最終盤まで、自分自身の色を見ることは出来ていませんでした。
しかしだからこそ、主人公・日暮トツ子の、自身に対する曖昧さや、人の色が見えるという認識と感情の境界の曖昧さは、(退学や、将来の進路などの)物事を分けられて孤独に陥ってる周りの人々を、深層でその人の本質を照らして無意識に救うことになっていたと思われます。
そんな周りの孤独を照らして本質的に無意識に救う主人公・日暮トツ子の存在と、時折語られるシスター日吉子(声:新垣結衣さん)の哲学的な言葉と、日暮トツ子と作永きみと影平ルイが奏でるどこか境界が曖昧だけど力強い電子音楽は、一貫して人々の孤独を救う根源的でさり気ない優しさと深さがあったと思われました。
今作はストーリー的には、学生時代の音楽に関わる話としては他作品でも様々描かれてきている題材で、図抜けた傑作にするには他のストーリー展開も必要だった感想もあるのでこの点数にはなりました。
しかしながら、この映画『きみの色』は、根底に流れる登場人物の孤独と、さり気なくその孤独を意識せずに境界を曖昧にして本質的に救っている主人公・日暮トツ子の存在と、シスター日吉子の哲学的な言葉と、3人が作り出した魅力ある音楽によって、どこまでも心地良く優れた作品になっていると思わされました。
(p.s. 1点だけ不満があるとしたら、最後のキャストスタッフロールに流れる主題歌のMr.Childrenの曲は合っていないとは思われました。
最後に流れる主題歌は実は重要で、3人が奏でるエレクトロ調の音楽を流さないといけなかったと思われます。
この主題歌選択に抵抗が出来なかった山田尚子 監督には責任があると思われますし、安易にMr.Childrenに主題歌を依頼した上層部スタッフ(おそらく川村元気プロデューサー)は本当に罪深いし、Mr.Childrenに対しても失礼だったと、僭越ながら思われました。)