「拍子抜け感」きみの色 野々ノノノさんの映画レビュー(感想・評価)
拍子抜け感
山田尚子監督作品ということで個人的に期待を膨らまして見に行ったが、拍子抜け感が拭えなかった。
映像美は素晴らしい。人それぞれの「色」が見える主人公、その目を通して見える世界は眩く色鮮やかに表現されていて、感じる色のなかに思春期特有の機微や憧れ、わくわくやドキドキが目一杯映し出されていたとは思う。音楽もいい。見慣れない楽器を取り入れることで興味が引かれたし、「水金地火木土天アーメン」なんて耳に残るフレーズと編曲の上手さ。主人公の素の朗らかさから生まれた曲にバンドらしいビートが加わる演出は観ていて楽しくなるところがあった。
だけど、他の方々も書いているとおりどうも中途半端というか、登場人物の内面に肉薄しているわけでもなく、葛藤も特になく、特別な行き違いやすれ違いが生まれるわけでもない。平凡な、無味乾燥とまでに言えてしまうストーリー。
まず密着感がない。誰か一人に真っ正面からフォーカスを当てているわけでもないので、彼らの現状を示されたところでふーんで終わってしまう。何かこの映画ならではの後悔や葛藤があれば別のだが、ありきたりで彼らも特に壁にぶち当たったり苦しみを吐露するわけでもなく、現代風の人物像なのかやけにあっさりと自分の境遇を捉えていて、強い共感を感じることもできない。ゆえに、それらのキャラクターを特に好きにもなれない。人間の臭いところが特になく、ただのいい子達なのではっきりいえばこんな奴らをメインキャラクターにすんなよとさえ思った(これは言いすぎだけど)。
山田尚子監督作品ということで、感情の揺れ動き、些細な言動によってさざ波のように起こる変化や、特別な感情のようなものを見せてくれると思ったのだけだ、結局嫌なところが見えない当たり障りのないキャラクターたちにしかいなかったので、そんな映像美を出されたところでなんか表面的だな、と感じてしまった。
設定が生かしきれていないのだろう。メインとなるキャラクターは主に3人だが、ぽんぽんぽんとそれぞれの見せ場や内面、現状を視聴者がわかる程度に描いてあとはライブシーン。映画という短い尺のなかでオリジナルをやるんだったら、一人にフォーカスを絞ってその関係性のなかで生じる揺れ動きに注力してほしかった。人を「色」で捉える主人公の性質がただ映像を派手にするための設定になっているようで空しい。
私はユーフォニアムを観ずに「リズと青い鳥」を観て山田尚子監督のファンになった。その作品の背景やキャラクターを知らなくても引き込まれて好きになったのでオリジナルでも面白いものが作れる人だと思う。映画館のスクリーンで経験したあの空気感は、ちょっとほかの人には作れないと思う。また面白い映画を作ってくれることを期待しています。