「光の屈折」波紋 ブレミンさんの映画レビュー(感想・評価)
光の屈折
予告で客が店員にキレるシーンがあり、実体験であのシーンと似たような場面に出くわしたことがあったので、観るのを一旦保留にしていたのですが、レビューを読む限りブラックコメディ的な立ち位置の作品みたいだったので、思い切って鑑賞。
思っていたよりも笑えて、役者陣の怪演が目立つ作品でした。
怪しい宗教にハマった妻と、癌を患って久しぶりに家に帰ってきた夫、彼女を連れて帰ってきた息子、そして周りのどこかしらに闇を抱える人たちの群像的物語に仕上がっていました。
夫が帰ってきてからというもの、妻の機嫌は悪くなるばかり。そりゃこれまでの生活の形を一気に崩していくので、イライラが溜まってもしょうがないです。宗教から貰った「緑命水」は勝手に飲むわ、祀ってある水晶玉はベタベタ触るし、庭の砂の波紋の形を変えてしまうし、隠してあったお酒も妻の目の前で飲むしでやりたい放題です。
それに対する妻のやり返しは歯ブラシを排水口でコスコスするという当人はとってもスッキリするやり返し方でした。このシーン辺りから笑えるシーンが多くなっていった気がします。
夫の癌の治療のための点滴を注入中に、一滴一滴垂れることに5万円、10万円とカウントしていくのも面白かったです。その隙を見て乳輪の形をを触ろうとする夫も何してんねんとツッコまざるを得ませんでした。
中盤までは夫がヤバいやつの描かれ方をしますが、中盤を過ぎた辺りから、妻の方にも問題があるのかもという描かれ方をしていきます。
息子の彼女を、障害者と言って嫌悪したり、無理矢理宗教に勧誘したりと、そりゃ家族からも距離を置かれるよなと思いました。夫からも息子からも、その彼女からも拒絶反応を示されるとおかしくなっちゃいますね。
登場人物の背景には東日本大震災と原発事故の放射能が隠れています。放射能を恐れて逃げた夫、地震で倒れた家具をてっきり片付けられなくなったお婆さんと、無かったことの様になっている現状に納得がいかずに過ごしている人物が多く描かれています。
懸念点だったスーパーのレジ打ちで客に怒鳴られるというシーン、最初のシーンはスーパーで働いてた頃の記憶がフラッシュバックして、苦虫を噛み潰した顔になっていましたが、その後のやり返しのシーン
「お客様は神様なんだよ!」
「神様だったらウチの旦那の癌治せますか?」
この返しの切れ味が素晴らしかったです。こう強く言えたら、ふんぞりかえる客にも強く出れるのになとカッコよくも思えました。その後も繰り返し客はメンタル超強かったですが笑
最後のフラメンコのシーン、今までの鬱憤を晴らすかの如く、雨を浴びながら踊るシーンには驚かされつつも、とても見応えのあるものになっていました。自ら流れを変えた妻の大きな変化も同時に味わうことができました。宗教との決別を果たすのか、それとももっとのめり込んでしまうのか、観客に委ねるラストも良い味を出していました。
でも棺から飛び出た夫の手を見て笑ってた感じ、何か吹っ切れたんだろうなと思って一安心です。
食わず嫌いはいけないなと思いました。こういう作品にもなるべく飛び込んでいこうと思った次第です。
鑑賞日 6/7
鑑賞時間 9:20〜11:30
座席 D-3