劇場公開日 2023年5月19日

「バランスがイマイチだったかな」最後まで行く 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)

2.0バランスがイマイチだったかな

2023年5月27日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

本作「最後まで行く」は藤井道人監督の作品となりますが、藤井監督の作品と言うと、つい先月「ヴィレッジ」を観たばかり。また藤井監督と綾野剛と言えば、「ヤクザと家族 The Family」(2021年公開)でタッグを組んだことが記憶に残る二人。さらに2020年の日本アカデミー賞最優秀作品賞などを獲得した「新聞記者」(2019年公開)も大変印象に残る作品でした。

以上、藤井監督の作品を過去に3本観て来た訳ですが、それらと比較すると、本作はかなり味付けが違うというか、趣の異なる作品でした。どの辺が違うのかと言えば、韓国映画をリメイクした作品であるということも影響しているものと思うのですが、以前観た3本は、主人公と社会の繋がりとか関係性にスポットを当てていて、結構社会性を持った作品という印象でした。しかし本作は、徹底した娯楽作品として創られていて、この点で大きな相違があったように感じました。しかも、岡田准一演ずる主役の工藤と綾野剛演ずる準主役の矢崎の二人は、二人とも警察官でありながら悪党であり、その他の登場人物も殆どがエゴと強欲を丸出しにした悪党ばかりで、その悪党同士がどう他の悪党を蹴落として利益を得てやろうかという化かし合いを描いている話だったので、これまで観た藤井作品の流れを期待していた私としては、かなり期待とは異なる内容でした。

また、岡田准一と言えば「ヘルドッグス」(2022年公開)で魅せた秀逸な格闘術の持ち主であり、本作でも刑事役を演じてそれなりに格闘シーンがあるにも関わらず、そうした技はほぼ封印されていたところも意外なところでした。まあいろんな性格や背景を持った登場人物になりきるのが役者の仕事であり、作品ごとに異なる演技をして当然なのですが、自分の運転する車で人を轢いてしまったことに端を発して、常に何かに追われてオドオドしている岡田准一の姿は、ここ最近ではあまり見掛けないものだったように思います。

このように、こちらの勝手な先入観とはかなり食い違う作品だったことで面食らう部分もありましたが、ストーリー的には結構面白い部分もありました。特に後半になって一旦時計の針を巻き戻し、別アングルで物語を再生して観客に答え合わせを提供したところは、非常に良かったと思います。また、主役・準主役の二人以外の出演者も、柄本明や広末涼子、磯村勇斗、駿河太郎、杉本哲太ら実力派がいい演技を魅せてくれたので、その点でも満足の行くものでした。特に主要な登場人物では唯一普通の人、しかも可哀想な人を演じた広末涼子が演じた工藤の妻には、心底同情してしまうほど上手な演技でした(笑)

ただ難を挙げれば、綾野剛演ずる矢崎が、大爆発して池に沈んだ車に乗っていたのに死んでいなかったりするなど、余りに不死身過ぎて、いくらなんでも不自然だったように思いました。別に映画だからいいじゃないかという話もない訳ではありませんが、もう少し爆発の度合いを調整するなど、バランスを取った方が納得感があったように感じられたところです。また工藤夫婦が離婚を決意し、妻(広末涼子)は街を離れると言い、夫(岡田准一)は街に残ることになり、夫は財宝を奪いに行く訳ですが、結果財宝奪取に失敗した後に妻に復縁を迫る下りは、余りに自己中過ぎてちょっと後味悪かったです。まあその後にゾンビ矢崎が再度登場してエンディングを迎えるので、最早後味も何もないという感じもしましたが。。。

そんな訳で、事前の先入観を差し引いて純粋に本作を観ても、バランスがイマイチしっくり来ない展開だったように感じたので、評価は★2とします。

鶏