「知らないで観られるあなた、実に羨ましいです」最後まで行く TWDeraさんの映画レビュー(感想・評価)
知らないで観られるあなた、実に羨ましいです
藤井道人監督、私としては19年の『デイアンドナイト』で認識しましたが、実際、同年公開の『新聞記者』でブレイクし、その後はすっかり「人気」の監督と言う印象です。その後、「網羅」とはいかないまでも彼の監督作品は初期の作品を除いてそこそこ観ておりますが、正直言えば個人的にあまり好みではありません。(と言うこともあり、前作『ヴィレッジ』は未見)ですが、今作は韓国映画の名作の一つといっても過言ではない『最後まで行く』のリメイクと言うことで、「好み」とはまた別の「実力」を拝見したく劇場で鑑賞です。
ちなみに、今回は評にあたりどうしても「オリジナルとの比較」となることから、内容面におけるネタバレは必至です。ご容赦ください。
さて、まずはいきなり全体を通しての感想ですが、意外なほど、と言うか、拍子抜けするほどオリジナルに忠実、、と言えば聞こえはいいですが、正直、もう少し「新しいアイディア」はないのかね?と思う内容です。だからこそ、アップデートとダウングレードを顕著に感じてしまい、ちょっとそれ自体が自分で雑音になってしまうくらい。なので、もしまだオリジナルも本作も観ていない方は是非「どちらか、一方だけを観る」のが一番のおススメかもしれません。なんなら、知らないで観られるあなた、実に羨ましいです。
と言うことで、内容について気になる点幾つかを、物語の展開に合わせて比較しながら論じていきます。
まずは「犬じゃない」件。私、結構これ気になりました。犬じゃない「それ」は、後半以降の「カギ」と言えますが、それにしても事故後の工藤(岡田准一)は全くそこに意識がありません。パトカーに意識を取られるのはわかりますが、むしろ、自分の仕出かしたことを「それ」が・・・と考えないのは不自然すぎます。なんなら、なかったような扱いで、後半に振り返っても「いやいや、その距離感なら」と無理を感じるのは私だけでしょうか?
そして、病院へ移動して「隠したソレを移動させる方法」。これはオリジナルで使う「(ソレを)運ぶには無理があるアレ」は現実的な方法に改変されています。ただ、無理があっても「アレ」はやっぱり面白いんですよね。しょうがないか、と思いつつももう少しアイディアが欲しかったことは否めません。ただ、全体的に見て、シリアスになる前のコメディ混じりなこの辺りのシーンこそ、岡田さんの巧さがあふれていて見どころ満載でもあります。
そこからの「アレを隠す所」について。日本人の私にはオリジナルを観ていて「そここそないでしょ」と思って観ていて、「ああなるほど」と思った部分が、邦画になると「いやいや、だからそこはないでしょ」と改めて。だって日本は基本「火葬」ですよ。証拠隠滅どころか、むしろ事件発覚で逃げ隠れ出来なくなるはずで、そこだけは選ばないはずなんですけどね、、ま、「そこに隠すから面白い」方をとって、結局は巧く(?)誤魔化しました。
と、このペースでやっていると終わらないので一気に終盤へ。
この作品のマクガフィンである「鍵」。オリジナルではエンディングを前に、あの「鍵」とは「アンバランスなほどの」中にあるお宝の対比に味わいがあるのですが、本作だと、立派な扉と中にあるお宝に比べていかにも脆弱と思わざるを得ない「ほどのアンバランスさ」で、いやいや、そのセキュリティは説得力無いわと感じざるを得ません。それだけのモノを置くところなら、もう少しお金かけましょうよ。ただ、「エンディング」という点に目を移せば本作の終わり方の「最後まで行く感」は悪くないですね。途中のあのギミックからの展開を生き延びる矢崎(綾野剛)ですから、まだまだ行きますよね。兎に角、綾野さんいい表情です。
とまぁ、長所もあれば短所もあるわけですが、せっかくの母国語でスムーズに観られると、さすがに役者の巧さが際立って解ります。主演・岡田さん、助演・綾野さんの素晴らしさは言うまでもなく、特に綾野さんは必ず賞レースに絡む演技だと思います。また、相変わらず山中さんや駿河さんが脇で良い仕事をして岡田さんをより惹き立てています。それはそれであっぱれ。で、作品としては「まぁまぁ」かな。偉そうにすみません。。