「ラブストーリーよりも、父娘の思いのすれ違いの方が心に残る」マイ・エレメント tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)
ラブストーリーよりも、父娘の思いのすれ違いの方が心に残る
4つのエレメントが人種や民族のメタファーであることは明らかで、あからさまに「ダイバーシティ&インクルージョン」を推奨する映画になっているのではないかと身構えたが、そこのところは、さすがに信頼のピクサー・ブランドだけあって、ちゃんとエンターテインメントとして楽しめるようになっている。
あまり説教臭さが感じられないのは、差別や偏見に関する描写や、それをたしなめるような描写が少ないからで、火の少女の父親が水のエレメントを毛嫌いしたり、火のエレメントが物件への入居や美術館への入場を拒否される場面はあるものの、それぞれのエレメントは、互いに対立することも排他的になることなく、平和裏に共存しているのである。
ただ、その分、火の少女と水の青年のラブストーリーも、案外あっさりと進展してしまい、「ロミオとジュリエット」のような苦難の恋を期待していると物足りなさを感じてしまう。
火と水が触れ合えるようになるというのも、どこか「ご都合主義」的で、どうせなら、触れ合うことができないままにしておいた方が、2人の恋愛の純粋さや切なさが、より深まったのではないだろうか?
エンドクレジットのイラストには、2人の子供とおぼしき人影が描かれていたが、これについては、あまりにもありきたり過ぎて、「興醒め」としか言いようがない。
異なるエレメントのカップルが、そんなに簡単に成立してしまうのであれば、エレメント・シティは、とっくの昔に「ハーフ」だらけの街になっていたのではないだろうか?
結局のところ、強く心に残ったのは、異なるエレメントのラブストーリーではなく、子供のためを思う親と、それを束縛と感じてしまう娘のすれ違いのストーリーの方だった。
ただし、娘が自分の本心を打ち明け、父親と和解し、恋人と結ばれることができたのは、すべて、あの災害が起きたおかげである訳で、そんな「福に転じさせるために災いが必要だった」みたいな展開には、どこか違和感を覚えてしまうのだが・・・