「子供には子供だけの世界がある」怪物 kozukaさんの映画レビュー(感想・評価)
子供には子供だけの世界がある
大きな湖があるとある街(劇中で諏訪とは特定されない)で雑居ビルで火事が起こる。
その火事を家のベランダから眺めるシングルマザーの早織(安藤サクラ)と小学生の息子の湊(黒川想矢)のシーンから物語が始まる。
映画はこの火事のシーンを起点に1つの出来事、時間軸を3者の視点で描く。
黒澤明監督が「羅生門」で用いたことが有名で、映画や小説でもよく用いられる手法だ。
今作品は是枝裕和監督では珍しく、自身の脚本ではなく、今作品でカンヌ国際映画祭で脚本賞に輝いた坂元裕二氏の脚本による。
第一幕は冒頭のシングルマザー、早織の視点で描かれる。
息子の不可解な行動から学校でのいじめを疑い、学校に乗り込んでいく。
そこでの校長の伏見(田中裕子)や担任の保利(永山瑛太)、教務主任の対応は誠意が感じられず、早織は不満を募らせていく。
ところが保利に息子がいじめの加害者だと言われるあたりから潮目が変わる。
第二幕で担任の保利の視点に変わると事は単純ではなく問題は多層的であることがわかってくる。
第三幕は当事者の子どもたちの視点に移る。
湊といじめの相手とされている依里(柊木陽太)の関係性が描かれるが、思春期の少年の危うさ、儚さ、瑞々しさが丁寧に描かれ、出色の出来。
特に依里役の柊木陽太の繊細な感情の表現には驚いた。
終盤は宮沢賢治の幻想的かつ謎めいた童話を想起されるような子供達の世界が描かれる。
1点気になったのは、視点の違いを分かりやすくするためか、第一幕でかなりのミスリードがあること。この映画ではその描き方はしなくていい。
音楽は坂本龍一が手がけ、1998年に発表されたピアノ曲「Aqua」が流れるエンディングの光景の美しさが脳裏に焼きつき余韻に浸った。