「ゲイとして自分がこの社会で生きるということ」怪物 ほのるるさんの映画レビュー(感想・評価)
ゲイとして自分がこの社会で生きるということ
間違いなくゲイとして日本で生きる自分にとってオールタイムベストに入りこんでくるとても大切な作品になりました。
「海外の賞レースを狙って、あとは見る人が見ればいい」という映画や、当事者への気持ちに寄り添うと言いながらこういった関係性を好む人たちに消費させる事で興行を成立させる映画ばかりの中で、この国の閉塞さを支える根本的な全体の問題に絡め取られている一つの要素として当事者も当事者以外の人たちにも多くの人に真剣に見てもらうという覚悟と気迫をこの映画から感じ、まずそこに勇気づけてもらいました。自分の身を削って自傷的な表現をしてでも真剣にテーマに向き合う作り手の人たちに自分に関連するテーマを描いてもらうとこんなに心強く感じるんだな。
ラストシーンに関しても、自分が映画を見た時は全く「死んで理想の世界に行った」なんて思うこともなく、2人がこれからもずっと一緒に生きていくという2人の決断と覚悟を祝福してるようにしか見えませんでしたし、第二幕の母親と教師の様子を見ても、あの後に湊と依里の告白を受けても真剣に悩み考えてくれそうな雰囲気を感じました。
もちろん、取り返しのつかないことも、解決していないこともありますが、それを安易な形で映画の中に収めず2人の決断そのものが最も重要なことで、それを受けて自分たち大人はどうすればいいのかという問いを観客に渡す姿勢はとても誠実に映りました。
そして、監督や脚本家の2人もラストシーンに関して強い口調で「2人とも死んでいない」「最後に流れたaquaも坂本龍一が娘に送った祝福の曲で、そういった明るさをイメージして採用した」と答えていて、余白のあるラストシーンですがそこをはっきりとしてくれたことも嬉しかったです。もし、ここでラストシーンに関して「みなさんの想像にまかせます」とインタビューに答えていたら5点満点から3点に下げてしまっていたかもしれません笑
また、決定稿であるシナリオブックを読むと、時間の都合で削られた部分には自認や三幕目に関してさらに丁寧に掘り下げている描写が多くあり、ラストシーンもさらに明確に明るく描かれていたので脚本も買ってよかったです。当初、脚本家の方が構想して書き上げていたという3時間verのシナリオや映画も見てみたいとおもいました。
久しぶりにディレクターズカット版がどうしてもみたい映画に出会えたことがとても嬉しく、映画を観終わったあともこの映画に関する続報にワクワクしています。