劇場公開日 2023年6月2日

「凄まじい完成度。問題を見過ごし続ける“現代”そのもの」怪物 ルイコスタさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0凄まじい完成度。問題を見過ごし続ける“現代”そのもの

2023年6月4日
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これは傑作と言っていいと思う。

社会問題が山積で、解決できる時間も労力もない。そうして大切なことが蔑ろにされていく。

そんな現代へのあきらめと、
それでも希望を持ち続けたいという制作者の思いがひしひしと伝わってきた。

そんなメッセージを具現化させた脚本が素晴らしい。

そして、説明的なセリフがないかわりに、
映像と編集で伝える卓越した技術が素晴らしい。

本作はしばしば時系列が戻る。
(カメ止めや内田けんじ的に)

時系列が戻ったりすると、
途端に分かりにくくなるのだが、
様々なポイントで理解できるように構成され、
さらにそれがわかった上で物語が展開する。

途中で何度か登場人物の視点が変わるのだが、
それは視点によって人の印象がまるで違う、
という演出だろう。

そのすれ違い、勘違いこそが、問題の解決を遠ざけ、最も大事なことが置き去りにされるという現代の本質をついている。

諏訪湖という舞台設定も見事。
湖の美しさを感じるシーンもあれば、別のシーンでは鬱屈とした沼のような印象も受け、その表情がとても雄弁だった。

非常に複雑ではあるが、
それを理解できる形に昇華させた見事な傑作。

もう何度か見に行こうと思う。

ルイコスタ