「余韻が深い作品」メグレと若い女の死 R41さんの映画レビュー(感想・評価)
余韻が深い作品
なかなか面白いフランス作品だった。
解説にあの「仕立て屋の恋」の小説家と監督の作品と知って納得した。
語られない背景こそ、この物語の原動力。
メグレ警視
後半で彼の妻がベティに「娘がいた」ことを明かす。
そして冒頭に検視官と話すメグレ
彼が医師として有能になれたのに突然警察官に転身したことが語られる。
これは、この時メグレが事件によって娘を亡くしたからだと思った。
フランスの歴史では女性は常に虐げられていた。
特権階級とその他市民という二分化は、第二次大戦後の復興期にブルジョワジーと工業労働者の二分化になった。
その色が濃い時代を背景に描いたのがこの作品だろうか。
かつての警察はブルジョワジーのための警察であり、労働階級者の事件はテキトーに片づけられていたのだろう。
メグレが真剣になって捜査する理由が、似たように娘を失ったことであり、また似たような娘が同じようにむごい殺され方をしたからだろう。
彼の執念は終わらないのかもしれない。
メグレは最後に一人静に映画館で映画を見る。
ブルジョワ層のパーティ そこに紛れ込んでみたものの一人佇んでいる女性は、ルイーズでありベティであり、そして自分の娘だったのだろう。
親として、娘の幸せを願わない者はいない。
人間としては些細な階級の差で苦悩する娘たちがいる。
少しでもいい生活やお金持ちと仲良くなりたい。
そんな娘を罠にかける連中がいる。
あのブルジョワの母親も、息子に幸せになって欲しいのは同じはずだ。
しかしながら貧富の差が社会の基盤となってしまい、警察の捜査すらそれが基準になってしまっている。
貧困という問題があっても、娘たちはパリを目指して活躍の舞台を探す。
ところがパリはそんな娘たちを罠にかけようとする輩がいる。
あの婚約者二人の性癖こそルイーズの死因
メグレの推理とベティに潜在捜査を依頼したことは、結果的に犯罪者をあぶりだすことができたが、メグレには様々なことが頭をよぎったのだろう。
事件捜査によって娘を思い出してしまったことが、当時娘が考えていたであろう映画作品を見に行かせたのかもしれない。
映画の中で佇む娘
いったい彼女は何を考えていたのか?
自分の娘はあの時、いったい何を考えていたのか?
これこそメグレが思いを馳せていたことだったに違いない。
事件で犠牲者が発生する。
その際、その夢や希望を持っていた彼女たちの無念を少しでも晴らしたいと思っているのがメグレだろう。
その時代背景と彼の想いという余韻がこの作品の最大の魅力だろう。