「ゴジラと言う名の戦争は終わらない」ゴジラ-1.0 終焉怪獣さんの映画レビュー(感想・評価)
ゴジラと言う名の戦争は終わらない
この時代に生まれて本当に良かったと噛み締める毎日。
毎年、何らかの形でゴジラ作品を観られようとは2004年の「FINAL WARS」を鑑賞した身としては夢のようです。
私は生粋のゴジラ信者であり、国内実写作品は勿論の事、モンスター・ヴァースシリーズ、アニゴジ3部作、ゴジラSP、その他あらゆる書籍を網羅しております。
いつかゴジラ映画に出演したいと願い続けていましたが、遂に念願叶いゴジラ-1.0のエキストラに当選し、長野県にて参加して来ました(ばっちし映ってました!)。
今作、監督が山崎貴監督と聞き、期待と不安が鬩ぎ合ってる方も多いと思われます。
実写映画には定評があり、「ゴジラ・ザ・ライド」の完成度も素晴らしいのですが、アニメ作品(特にドラクエ)に関しては賛否がある監督として知られています。
そして鑑賞後に思ったのは、山崎貴監督が制作してくれて本当に良かったと云う感謝。
この時代、この瞬間にとんでもない映画を観てしまったと放心状態になりました。
以下、伝えたいポイントをレビューします。
【GOOD POINT】
○時代設定
誰しもが1954年のゴジラを神聖化し、それ以前の時代を舞台にする事は抵抗があったはず。
1954年よりも前を描いた事自体がチャレンジャー。
自身の得意な時代設定で勝負したのは英断だったと思います。
○圧倒的ゴジラの造形美
その姿が披露された時、誰しもが大絶賛したゴジラの造形。
「ゴジラ・ザ・ライド」の時も日本のVSシリーズと米国のレジェンダリーゴジラの良い所取りをした姿に感動しましたが、ライドより背鰭が鋭利になり、神々しさと禍々しさを兼ねた素晴らしいものになっていました。
しかも冒頭のゴジラは、ゴジラザウルスのオマージュでしたね。
ゴジラの脅威の再生能力描写もあり、大満足です!
○邦画最高レベルのCG・VFX
日本の優秀なCGクリエイターはゲーム業界に集まる傾向にあります。
だからこそ日本のゲームのCGクオリティは世界トップクラスですが、邦画業界は厳しい状況。
それを嘆いていたのがCGクリエイターでもある山崎貴監督。
白組の表現レベルも「ここまで来たか...」と唸る程に生物の動きに違和感がありませんでした。
また監督が仰るように水の表現も素晴らしかったです。
建物の倒壊の作り込みも尋常では無かったです。
破片の飛び散り、窓ガラスの割れ方一つ取っても「誰が気が付くんだ?」レベルの情報量。
○絶望的世界観を表現する音楽
伊福部昭先生を筆頭にこれまで多くの方がゴジラ音楽を生み出してくれました。
近年ではシン・ゴジラの鷺巣詩郎先生、ゴジラ(2019)のベアー・マクレアリー先生と伊福部昭先生へのリスペクト溢れた音楽が印象にあります。
今回の佐藤直紀先生が手掛ける音楽も最高でした。
山崎貴監督作品に多く携わっているだけあって阿吽の呼吸だったのでしょう。
マイケル・ドハティ監督とベアー・マクレアリー先生のように。
此処ぞと云う時の伊福部昭先生のゴジラのテーマはずるい!
○絶望的世界観の空気が素晴らしい
過去にも大怪獣総攻撃の白目ゴジラだったり、
怪獣黙示録、プロジェクト・メカゴジラで描かれたゴジラ・アースだったり、絶望的なスペックと世界観を描いたゴジラは多々ありましたが、今作も戦後故に人類の無力感がひしひしと伝わって来ます。
○妥協なき殺戮描写
予告にもあった人々が不条理に亡くなっていく描写に脱帽しました。
ゴジラが歩くだけで災害級の被害になるのは、ギャレゴジ(2014)やシンゴジでも描かれましたし、特撮怪獣枠で言うならばガメラ3邪神覚醒でもありました。
しかし-1.0の描写は、それらを上回る凄惨の描写。
ゴジラとは戦争映画でもあり、反戦を謳う。
戦争の悲惨さを伝える為に残酷描写を逃げずに描いた事に拍手を贈りたい。
○納得の行く人間ドラマ
山崎貴監督に限らず、邦画・国内ドラマにある物語を阻害する人間ドラマ。
危機的状況であるにも関わらず恋愛描写や家族愛を挟む事がある。
それ故に現代の邦画へのアンチテーゼとして庵野秀明監督は、シン・ゴジラに不要なドラマを挟まなかった。
山崎貴監督作品は、一部界隈で「お涙頂戴劇」を挟むと言われる事もありましたが、この-1.0にはそんなものはありません。
登場人物の言動に説得力があり、物語の進行を止める場面はありませんでした。
登場人物達のあの戦争を生き残ってしまった後悔が丁寧に描かれていました。
○ゴジラの普遍的なメッセージ性
ゴジラは言わずもがな反核・反戦・反空爆を象徴する作品です。
同時に人間中心主義、果ては人類史上主義へのアンチテーゼとしての側面もあります。
今作は山崎貴監督が得意する時代からして反戦の意味合いが強くなってます。
戦後からまだ2年しか経っていない1947年が舞台なだけあって生き残った人々は、心の整理が出来ていない。
そんな人々が自身の中にある戦争に決着を付ける物語は、ゴジラ作品との親和性が高い。
生きる為の戦いであり、命を軽視したあの戦時とは違うと云う決意として震電に脱出装置を付けたのは痺れました。
近年の反戦映画の中で最も説得力がありました。
○鳥肌が立った熱線の映像美
ゴジラと言えば熱線であり、誰しもがその威力・エフェクトに期待してる。
これまでにレジェゴジの尻尾からチャージ、
シンゴジの背鰭・尻尾からのビーム、
アースの空間からも撃てる高加速荷電粒子ビーム・尻尾から放つプラズマカッター等、
我々の予想を超える恐ろしくも美しい圧倒的な熱線が生まれて来ました。
今回の特徴の一つである背鰭が迫り上がって行く熱線発射シークエンスは鳥肌が立ちました!
「来るぞ、来るぞ...キター!」と心の中で叫びました。
シンプルな熱線ながらも現状最高レベルのVFXで描かれているのでえげつない破壊力を体感出来ました!
発射直後に爆心地からキノコ雲が上がり、黒い雨が降り注ぐシーンは、ゴジラは原爆へのアンチテーゼだと言う事を再認識しました。
余りの威力にゴジラ自身もダメージを負う設定も最高です!
○圧倒的戦力不足での抗戦
終戦から数年しか経っていない日本。
当たり前ですが自衛隊が発足したばかりで既存の軍事力は微々たるもの。
東宝自衛隊は勿論の事、これまでぶっ飛んだ超兵器のスーパーXやらディメンション・タイド、3式機龍なんてものが無い。
ヤシオリ作戦のような官民一体の作戦行動も行えない日本でどうゴジラに抗うのか興味がありました。
やはり史実通りに既存している軍用艦を中心とした作戦に胸が熱くなりました!
私の大好きな奇跡の不沈艦の陽炎型駆逐艦・雪風が作戦の中心なのが嬉しかったです!
しかも幻の局地戦闘機・震電まで出すとは...山崎貴監督、凄いサプライズ過ぎます!
○ラストシーン~ゴジラへの敬礼~
あのシーンは本当に胸に響きました。
あの敬礼には様々な意味合いがあったと思います。
亡くなった英霊達への追悼、人類によって目覚めさせてしまったゴジラへの追悼、自身の中にあった戦争への決着...
あれは邦画史屈指の名シーン。
○ラストシーン~戦争の爪痕~
生きていた典子でしたが、首筋に不吉な影が...
G細胞が体内に入ったからこそ典子は生きていたのでしょうね。
G細胞による浸食描写が一番の絶望かもしれません。
同時にあの描写は、被爆の凄惨さを伝えるメッセージだと思いました。
○ラストシーン~ゴジラは不滅~
ゴジラ信者からしたら「人類がゴジラを倒せる訳ないだろ!ゴジラ万歳!」と言う正真正銘のラストシーンで締めてくれて嬉しかったです!
山崎貴監督、ありがとうございます!
○エンドロール
旬なアーティストによる主題歌を起用しなくてありがとうございます!
伊福部昭先生と佐藤直紀先生の音楽のお陰で多くの方々が、余韻に浸れたはず。
ゴジラ映画によくある上映直前にある「ゴジラの足音→咆哮」をラストに持って来たのも山崎貴監督のゴジラ愛を強く感じました。
【BAD POINT】
○ゴジラの弱体化
決して不満だったのではないですが、ゴジラと言えばG細胞やらオルガナイザーG1やら非対称性透過シールド等、絶対的な防御力・再生能力を持つ存在。
既存の生物学に則る設定なのは理解出来ますが、この時代の人類兵器でダメージを負うのは「ん?」と思ってしまいました。
(過去作にもダメージを受ける事はあったので私個人の我が儘な感情です)
○感情的な人間ドラマ
GOODにも書いたので矛盾はしてますが、やはり少し違和感があるシーンがありました。
邦画で見受けられる大声で感情を露わにする箇所があり、人間描写が丁寧を通り越してくどさを感じる声があります。
今作も些細なのですが、少々気になったので。
○何処にそんな時間が...
ワタツミ作戦終盤、集結した船が雪風を牽引する時間だけがワープしてましたが、ツッコむのは野暮ですね。
今作は本当に素晴らしい作品でした。
この時代に生まれて劇場で鑑賞出来た事に感謝しかありません。
ゴジラは、日本人にとって単なるエンタメではありません。
1954年、世界に対して戦後9年にして邦画の底力を見せ付け、反核を掲げた作品を送り出した。
その後もその時代が抱える問題に対して風刺だったり、疑問を投げ掛けたり、我々にとって良き哲学材料として機能して来ました。
ゴジラが生まれる時、日本や世界に大きな歪みが生まれているんだと思います。
とても厳しく辛い時代ではあります。
今は-10の時代ではありますが、私達は今を生きなくてはなりません。
マイナスをゼロに、そしてプラスに。
頑張って抗って、生きて行きましょう。
最後に改めて素晴らしいゴジラ作品を生み出してくれた全ての人々に感謝を。
> この時代に生まれて本当によかったと
まったく同感です。こんなに、素敵な怪獣映画たちを次から次へと観られるなんて…感無量
そして、素晴らしいレビューをありがとうございました!!