「シリーズ随一のエモーショナルなゴジラ映画」ゴジラ-1.0 しゅうへいさんの映画レビュー(感想・評価)
シリーズ随一のエモーショナルなゴジラ映画
ゴジラ・シリーズ第30作(国内通算第33作)。
第47回日本アカデミー賞最優秀作品賞受賞作。
第96回アカデミー賞視覚効果賞受賞作。
TC PREMIUM THEATER(ドルビーアトモス)で鑑賞。
まさに圧倒的な絶望だった。恐怖の象徴として、日本純正のゴジラが令和の世に新生したことがとても喜ばしい。
1作目のDNA(特に反戦の要素)を色濃く受け継ぐ正統派にして、新たなスタンダードとなる名作が誕生した。
正直、今まででいちばん面白いと感じた。
私の観たいもの、期待していたものが全て詰め込まれている感じで、満足度がかなり高かった。全身から発する神の如き存在感。何者も敵わない凄まじい破壊力。これこそがゴジラの真髄であり、本作のゴジラはこれまで以上に鬼神であった。
VFXのクォリティーがハリウッド版に引けを取らないくらいに素晴らしく、これまでに無かった、顔を海面に出して泳ぎ船を追うゴジラと言った描写や、ゴジラの巨大感・絶望感を引き立たせるアングルなど工夫が凝らされていて迫力満点。
特に熱線、過去最大威力で度肝を抜かれた。ゴジラ自身口の周りが焼け爛れる熱量であり、一射で原爆並みの被害が出てしまうなど絶望以外の何物でも無い。熱線発射をカッコいいと思ったことはあれど怖いと思ったのは初めての経験だ。
ゴジラによる殺戮描写は「大怪獣総攻撃」のそれを上回る凄惨さで、凄まじい絶望をスクリーンから迸らせるに充分な威力だった。圧倒的な破壊力で銀座を蹂躙するゴジラ。凄絶さに恐怖するしかない名シーンに、目も心も奪われた。
これまでゴジラ映画だけじゃなく特撮全般に言えることとして、人間ドラマの弱さが挙げられて来た印象がある。私自身、ゴジラ映画はあくまでもゴジラが主役、ドラマを深くすればノイズになる可能性があり両立は難しいと思っていた。
ところが本作では、「シン・ゴジラ」でさえ極力廃していた感情豊かなドラマがゴジラのスペクタクルと混ざり合い、決して互いを殺さず、高め合っていることに驚かされた。
「俺の戦争はまだ終わっていない」と語り、生き残った罪悪感に苛まれる敷島を神木隆之介が熱演。「お前は生きてちゃいけない人間なんだ」と自分に言い聞かせるなどして元特攻兵の役づくりをしたと言うだけあり、迫真の演技に引き込まれた。
敷島、典子、明子の家族愛も温かな涙を誘う要素。典子との交流を通して敷島が生きる意欲を見出す展開も感動的で、ゴジラがそれを砕く障壁として機能しているのが良かった。
敷島(を含めた多くの登場人物)対ゴジラ(戦争の化身)と云うはっきりした図式で人間ドラマとゴジラを結びつけているからこそ、両立出来ているのかもしれないと感じた。
どん底に突き落とされても這い上がる。勇気を持って絶望に抗う。未来のために立ち上がる。それが人の強さであると謳う人間讃歌は「シン・ゴジラ」のクライマックスにも通じるアツさがあり、戦争を生き残った人々とゴジラの最終決戦はエモ中のエモ。総力戦である「海神作戦」の行方にハラハラ・ドキドキして手に汗握った。「終わらない戦争」を清算し、生きるためにゴジラに挑む敷島の姿に、興奮と感動の涙が流れた。
あの「シン・ゴジラ」の次の和製ゴジラ映画の新作を託された山崎貴監督、並大抵のプレッシャーではなかったはず。
見事それを跳ね除けこんなにも素晴らしいゴジラを届けて下さり、本当に心からの感謝を。ありがとうございました。
次にゴジラをつくる人はまたプレッシャーだな…
[余談1]
劇伴は佐藤直紀氏作曲の曲しか流れないと思っていたから、お馴染みのテーマが流れた瞬間落涙。しかも流れるタイミングがばっちり過ぎて、これまた涙を誘われた。
最終決戦では駆逐艦の進撃に被せて流れた。これはかなり秀逸。現在ゴジラのテーマとして定着している曲は本来防衛隊のテーマだったことを踏まえているからだ。
[余談2]
銀座でゴジラの猛威に慄く群衆の中に橋爪功が。「VIVANT」に続いてのシークレット・キャストである(笑)。
[余談3]
ラストシーンの、ふたつの意味深な要素が非常に気になるところだ。典子の首筋に覗いた黒い痣。肉塊となったはずのゴジラの復活の兆し。つまり、「ゴジラ0」があると期待したい。
[追記(2023/11/06)]
これまでのゴジラ映画では必ずと言って良いほど特撮のナイト・シーンがあった。爆発の炎が夜景に映えて迫力が増すだけでなく、技術の荒さを暗さで誤魔化す役割があったそうだ。
しかし本作では冒頭を除き、メインのVFXシーンは尽く昼間。誤魔化しや妥協を許さぬ気概が感じられ、尚且つ高いクォリティーを維持して最高のスペクタクルを生み出していた。
[追記(2024/03/08)]
日本アカデミー賞最優秀作品賞受賞、ファンとして本当に嬉しい限りだ。まさか、シリーズ2作連続で最優秀作品賞を獲得出来るだなんて全く予想していなかった。
[追記(2024/03/11)]
アカデミー賞視覚効果賞受賞は文字通りの快挙である。本作は日本映画の、否、世界の映画界のエポックメイキングとなったのだ。ゴジラ・ファンとしてこんなにも嬉しいことはない。
この感激、この喜び、ついに獲りました。ゴジラが世界のキングになったのをこの目ではっきりと認めました!
[追記(2024/03/16)]
IMAX版を観て。評判通りの額縁上映だったが、映像も音響もドルビーシネマとは違う調整がされていて、個人的にはこちらが好み(冒頭の呉爾羅の鳴き声が違っている気がした)。
アカデミー賞の視覚効果賞を受賞した効果なのか、思ったよりも席が埋まっており、初見の方も多いと見え、ファンとしてとても嬉しい空間での鑑賞となった。感無量である。
[以降の鑑賞記録]
2023/11/11:T・ジョイ梅田(ドルビーシネマ)
2024/03/11:T・ジョイ梅田(ドルビーシネマ)
2024/03/16:109シネマズ大阪エキスポシティ(IMAX)
2024/04/30:Blu-ray
2024/11/01:金曜ロードショー(地上波初放送)
2024/11/03:Ultra HD Blu-ray
※修正(2024/11/01)
シネマディクトさん
コメントありがとうございます。
ゴジラ・シリーズ史上最高の人間ドラマに感動しました。
「生きて、抗え。」な展開は本当にアツくて手に汗握りました。
もう、全部激しく同意のレビューです。今までのゴジラシリーズは人類パートのドラマって寒々しいくらいにチープだったけど、本作はガッツリ来ていてジーンとしました。ただゴジラにやられっぱなしでなく、知恵を絞って立ち向かうのがよかったですね。
こんばんは。
コメントありがとうございます。
拙文をお褒めいただき恐縮です。
ファンのみならず一般にも受け入れ易いゴジラ映画であると思います。
本作をきっかけにゴジラを少しでも好きになっていただけたら幸いです😊
こんばんは。本作はゴジラ初心者の私でもVFXの技術の素晴らしさや脚本、そしてゴジラの恐ろしさを体感できました!
しゅうへいさんの熱いレビュー!映画同様にワクワクしながら拝読しました♪
庵野監督からの山崎監督ゴジラ。相当なプレッシャーもあっただろうと容易く想像出来ますよね。
期待を超えてくれた製作陣に感謝です。
コメントありがとうございます。
確かに、意味深ですが話としてはきれいに終わっているのでこのまま完結と云うことで良いかもしれません。
昭和シリーズは完全に子供向けに舵を切ったから、あのように出来たのでしょうね。
共感ありがとうございます。
ハード路線は続編が難しいと思います。ガメラと違って水爆という枷が有るので・・
昭和ゴジラは良くコミカル化出来ましたよねー水爆大怪獣なのに。
まずは山崎監督に感謝ですね。期待と予想以上のゴジラを作ってくれました。この人のゴジラ愛は本物でした。
次へのハードルやプレッシャーはまたまた高く上がったようですが、自分はエールにも感じました。
日本映画とゴジラはまだまだやれる!