「宗教だけでは生きられない」聖なる証 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
宗教だけでは生きられない
もし本作が実話を基にした作品か、でなくともミステリー要素の高い作品だったら、もっと違ってたであろう。
そのいずれでもなく、こんなにも宗教色が濃かったのは難だった。
1862年、アイルランド。
4ヶ月何も食べずに生きている少女。
その調査を命じられたイギリス人看護師。
これだけ聞くと非常に興味惹かれるのだが…。
開幕ショットは、まだ未完成の骨組み露の美術セット。そこに、「『聖なる証』をご紹介します…」とのナレーション。映画の定石を覆すような、ぶっ飛びの開幕。
つまりこれ、あくまで個人的な見解だが、作品自体は作り物。しかし、語られる話から何を感じ、何を信じるか。
…という事ではなかろうか。(という事でいいのかな…?)
やはり誰もが、摂食せず生きる少女の秘密が気になる所だが、ズバリ種明かし。
少女は天から授かる“マナ”で生きているというが、その“マナ”というのが母親からのキス。つまり、母親が食べ物を口に含み、口移しで与えている…との憶測。(当人たちは否定)
ペテンやないかい!…はともかく、そこがフィーチャーされている訳でもなく。
生物学的な驚きの秘密ではなく、これにも宗教色関わり、一番肝心な所がちとう~ん…。
やはり宗教絡むと、分かる人には分かる、分からない人には分からない。
少女が断食するようになったのは、ある過去のトラウマから。実兄からレイプされていた。その兄が死去。兄を死に追いやったのは、自分。地獄で苦しむ兄を救う為に、断食の儀式を捧げている。
宗教的な死生観、救済も分かりにくく…。
ヒロインにもトラウマが。かつて子供を身籠るも、命を落とし…。
少女を取り巻く大人たちの思惑。
娘を“奇跡の子”と信じ、献身する家族。が、それが却って娘の命を左右する事に。
新聞や取材などで利用しようとする輩。
調査を命じた教会側。調査報告を受け、断食の秘密が宗教が関わっていると知るや否や、報告を揉み消し。
“マナ”で生き永らえているとは言え、全く栄養が足りない。日に日に衰弱している。死を望む少女。神の思し召しの下に。
つまりは、宗教が一人の少女を死に至らしめる。こんな事、知られてはいけない。
何だかこのご時世と…。
客観的に、自分なりの解釈でレビューを書いていく内に、それなりに深いものも。
主演フローレンス・ピューや少女役キーラ・ロード・キャシディの熱演。
人里離れた閉塞感、地方の外れの何処か空虚感、全体覆う不穏感…セバスティアン・レリオの重厚な演出。
クオリティーは充分だが、とにかく重く、暗い。
難解でもあり、宗教観がそれに拍車をかける。
私はこの作品に、信じるものや救いを見出だせなかった。