「過去との闘い。そして継承され続けていく」クリード 過去の逆襲 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
過去との闘い。そして継承され続けていく
『ロッキー』のスピンオフとしてファイトが始まった『クリード』ももう3作目。
アメリカでは『ロッキー』も含めシリーズ最高のヒットを記録し、もはやスピンオフではなく人気シリーズという“王座”を確かなものに。
今回の話題は主演マイケル・B・ジョーダンが監督デビューして兼任。スタローンも自らメガホンを取り、これはもうシリーズの恒例か。
『ロッキー』から『クリード』へ。スピリッツも製作スタイルもしっかり継承し、王者アドニスの新たな闘いは…?
いきなりだが、リングから退く。
前作のドラゴJr.との激闘で身体はボロボロ、ピークは過ぎた。
それでも引退試合は勝利を収め、華々しい花道を飾った。
引退後は後進育成に。妻ビアンカや難聴の娘アマーラ、育ての母メアリー・アンとの仲も良好。高層マンションで暮らし、何もかも幸せの絶頂。
あのアポロの息子として鳴り物入りでロッキーと共にチャンピオンを目指していた頃が遠い昔のよう…。そういやロッキーも『1』では底辺の人生だったが、『3』や『4』の頃はチャンピオンの暮らし。ヘンな家事ロボットもいたっけ。ここら辺までロッキーに習って…?
でもそんな時に、決まって現れるのだ…。
デイミアン・アンダーソン。通称“デイム”。
アドニスとは幼馴染みで兄貴分。彼もまたプロボクサーを目指していた。
が、ある罪で逮捕。刑務所を出たばかり。
アドニスは家族に紹介し、ジムにも招待。
かつての親友同士の再会。その喜びを分かち合っていたが…。
アドニスが育てた現チャンピオン、フェリックスのタイトル戦が控えていた。
相手はあのドラゴJr.。大注目のビッグイベント。
が、あるパーティーの乱入者の襲撃でドラゴJr.が怪我をし、試合は絶望的。
大金掛け注目集める試合を今更キャンセル出来ない。誰かいい対戦相手はいないか…? そんな時…。
俺をリングに上げてくれ。デイムはブランクはあるものの、かつてプロボクサーを目指しリングにも上がっていた。
兼ねてからアドニスに頼んでいたが、アドニスはこれを拒否していた。が、しかし…。
現チャンピオン対無名の挑戦者。これはこれで盛り上がる。アポロ対ロッキーのように。
かくして試合の日がやって来た。
これが最悪のゴングであったのだ…。
技術や実力もフェリックスの方が上。今旬の現チャンピオンとピークを過ぎた元アマチュア…誰の目から見ても明らかだった。
が、デイムの挑発にフェリックスはペースを崩す。加えて、反則スレスレの攻撃。
優劣逆転し、遂には…。新チャンピオン誕生。
劇的な形勢逆転に歓喜に沸く所だが…、あまりの出来事に騒然。アドニスも素直に喜べない。
プロやスポーツマンシップに反するようなデイム。
彼の目的はチャンピオンになる事ではなかった。
全ては、アドニスへの復讐…。
兄弟同然に育ったアドニスとデイム。その絆は育ての母メアリー・アンより濃く。
2人は施設に居た時、レオンという男から虐待を受けていた。
ある時、レオンと再会。カッとなったアドニスはレオンに殴り掛かる。レオンの仲間もやって来て、デイムが銃を持って助けに現れる。そこへ、警察が…。
怖くなったアドニスは隙を突いて逃げる。
デイムは罪を被り、刑務所へ…。
アドニスの過ちで刑務所に入れられた。
その間アドニスはボクサーとしてチャンピオンになり、家族も豪邸も手に入れた。
欲しかった地位も名声も俺の罪被りでアイツは手に入れやがった。それを全て奪ってやる…。
親友同士の感動の再会じゃない。元親友同士の因縁の対峙だ。
デイムの気持ちも分からんではない。
罪を被せられた。しかも面会にも来ず、手紙の返信すらしない。
アドニスはこんな薄情者だったのか…?
デイムはアドニスに投げ掛ける。また逃げるのか? お前の人生は逃げてばっかりだ。
怖かったのだ。少年アドニスの気持ちも分からんではない。
人には誰だってある。最低最悪の過ち、誰にも言えない過去…。
映画としては本作で初めて明らかになったけど、アドニス自身としてはずっとずっと心の影だった筈。
消し去ろう忘れ去ろうとはしていなかった筈。だからこんなにも苦悩を…。
手紙に関してはメアリー・アンが関与していた。ありがちだが、息子を守りたかっただけ。
メアリー・アンとアドニスの母子ドラマとしても。何となく察しは付いたが、悲劇が…。
時に本音をぶつけ合ったりしながらも、支えになるは愛妻の存在。夫婦愛は『ロッキー』からのこのシリーズの源。
そして、愛娘。どうやらボクシングに興味あるようで…。
そんな娘に、父はチャンピオンボクサーとして弱い姿を見せられるか。
自身の過去、後悔、苦悩を打ち明け、アドニスは決意する。
現役復帰。リングで“過去”が待ち受けている。
その過去を断ち切り、今を掴め。
マイケル・B・ジョーダンは今回も熱演魅せてくれるが、今回は演出に注目したい。
特別斬新とか類い稀な才能とかではないが、そのスタイルは正統派でストレートパンチ。
アドニスと家族、デイムとの関係をじっくりと。
勿論シリーズ恒例の熱いトレーニングシーンやエキサイティングなファイトシーンも。
キャラ描写やファイトシーンに日本のアニメから影響受けたというのは何だか嬉しい。今をときめくハリウッドスターも日本アニメ好き。偉大なり、日本アニメ!
王道的な心揺さぶる人間ドラマ×血沸き肉躍るボクシング映画。
アドニスの“過去”として立ち塞がるデイム。演じたジョナサン・メジャースの存在感も申し分ナシ。
MCU目線で見れば、キルモンガーvsカーンだね…なんてお楽しみもあり。
それだけに、売れっ子として今後も引く手あまただったメジャースの不祥事が残念でならない…。
アドニスの新たなドラマとしても、ジョーダンの初監督作としても上々。
今回も良かった。
が…
前2作ほど盛り上がり切れなかったのも事実。
個人的な要因は、2つ。
まず、1つ。
話は確かに悪くない。
が、アドニスがデイムと再会した時、端から誠心誠意謝罪していれば済む話だ。
映画としての盛り上がりやアドニスの内心の弱さも分かるが、ここまで拗れなかった筈だ。
とは言っても、2人はボクサー。拳で語り合って和解する。
全く、ボクサーって奴は…と思うが、それが魅力なんだけどね。
2つ目。
これは多くの方がすでに指摘してる事。
ロッキー/シルヴェスター・スタローンの不在。
いや勿論、今回思い切ってロッキーから離れ、本当の意味でアドニス・クリードの新たなドラマを作ろうとした意欲は買う。
いついつまでも頼ってちゃあいけない。アドニスだってもう立派なチャンプだ。一人立ちして新たな物語を作る時だ。
それにロッキーは、前作で有終の美を飾ったと言っていい。また引っ張りだしたら蛇足になる。
ただ残念だったのは、ほとんどロッキーへの言及が無い事。
今のアドニスにロッキーの存在抜きで語る事は不可能。師であり恩人であり友だ。
だから今ロッキーがどうしてるとか、例えば完全にボクシングの世界から退き息子夫婦や孫と余生を穏やかに暮らしているなど台詞上でも多少触れて良かったと思う。
なのに、全く触れられない。アドニスが苦境の時、必ず支えになってくれたのもロッキー。今回の苦境に一切スルーなのは不自然でしかない。
スタローンと製作サイドに何かあったとチラッと聞いたが、何だかまるで干されたようで寂しい…。
何だか訳ありの恩義ある人へ心の内を素直に切り出せないアドニス自身を地で行ってる…?
以上の少し物足りなさはあったにせよ、これがアドニスの新たなドラマにして“最後のドラマ”であっても悪くはない。
あのラストシーン…。ファイターの着地点は穏やかなものだ。
『ロッキー』から長い休息期間を経て『クリード』が始まったように、いつかまたリングに上がる時が来るかもしれない。
その時はアドニスはセコンド。リングに上がるのは、ひょっとして娘かもしれない…。
難聴抱えながらも父のようなチャンプを目指す。父と二人三脚で。
ロッキーとミッキーのように。ロッキーとアポロのように。ロッキーとアドニスのように。
マンネリと言われてもいい。継承され続けていくマンネリズムに、私たちは熱く燃えるのだ。