「たくさんの問題提起と可能性。目を逸らさずに。」チョコレートな人々 ゆめさんの映画レビュー(感想・評価)
たくさんの問題提起と可能性。目を逸らさずに。
利益の出ないと言われる福祉分野。
そこに風穴を開けるかのように全面的に障害者雇用を取り入れつつ、かつ利益をちゃんと出し、全従業員に最低賃金以上の給与を出すことを理念に掲げる企業「久遠チョコレート」を追ったドキュメンタリー。
本作は観ながら色んなことを考えすぎてまとまってないけど思ったことを思い出せる範囲で記してみる。
まず夏目社長のバイタリティーに恐れいった。
そして久遠チョコレートを見ていると障害者雇用の現実がこれでもかというほどわかる。
本当に難しい問題だと思う。
本作を観終わった後思わず考え込んでしまった。
でも「久遠チョコレートってすごい企業だな。頑張ってるな。障害者雇用って難しい問題だよね」って他人事目線で話すのでは本作を観た甲斐がない。
社会の一員として、また明日は我が身として捉えて私も考えていかなければと改めて思う。
とはいいつつ仕事で障害者福祉分野に関わっている身としては、利益を出すことと福祉分野がうまく融合する展望はまだやっぱり持てなくて、それこそ本作で夏目社長が言うように「もがきながら」探っていくしかないんだろうな、とも思う。
あと印象的だったのは久遠チョコレートの理念はとても素晴らしいことだと思うけど、結局社長(やその家族)が身を削っている姿や、一人一人の障害に合わせておそらく採算性度外視の器具を開発したりしているのを見るに、とても危うさも感じたこと。
作中で取り上げていたような大口受注やイレギュラーが起きた時に対応できるのは、どれだけ従業員がいたとはしても、結局健常者(や障害の程度がそこまで重くない)メンバーだ。負担が片寄ることは従業員の軋轢を生みがちだというのを、社会人として日々組織の中で働く私は知っている。
(あとこの場面に関しては夏目社長の理念は否定したくないけど、健常者のマネージャーはちゃんと管理できる人材を雇ったほうがいいと思うとおせっかいなことを思ってしまった…。久遠チョコレートの理念に沿わないこととはわかっていても…という独り言)
そして一人一人に合わせるということはそれにかかるコストも発生するわけで、そしてそれは会社の経費から出すしかないわけで、かけたコストを上回る利益を従業員個人が出すのは難しいだろうし、それで利益が確保できなければ、全従業員に影響が出るわけで…。
そこを全従業員が納得できてるならいいけど、と色々考えてしまう…。
でも、そもそも障害の有無という側面だけでなく、人間はパーソナリティという側面でもあまりに多様で、そんな人たちが集まって同じ目的に向かうのはそもそも難しいことだよな、とも改めて思った。
作中に登場した匹田さんや美香ちゃん、よしのぶさんやそして彼らの家族の様子を思い出しながら、個人の長所や特性を活かす働き方や可能性について私も考えていきたい。
(しかし美香ちゃんのお母さんの様子や夏目社長に言っていた「大人になってください」はちょっと忘れられないと思う。綺麗事だけでは生きていられないと思わせる言葉の重さ。)
あと久遠チョコレートを本当に長期的なビジネスとして成り立たせるには「障害者の人たちが頑張って作ってるから買って応援しよう」ではだめで(いや、それはそれで一つのビジネスなんだけど)、「あそこのチョコレートは美味しいから買おう」にならないといけない。
久遠チョコレートはそこがうまく機能しているのがビジネスモデルとして素晴らしいと思う。
そしてそれは障害者雇用において忘れてはいけない観点だと思う。
ここは押さえなくてはいけない。
最後に、ナレーションの宮本信子さんの声や話し方は素敵だなあと改めて思った。