「サイドBも見たくなった」ロストサマー もふもふしたいさんの映画レビュー(感想・評価)
サイドBも見たくなった
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主人公が70代のお爺さんと20代のヤンキー君という設定自体は、映画において決して珍しくない。しかしながら、新鋭監督の演出手腕と役者二人の底力でグイグイとストーリーに引き込まれた。
二人でドライブし始めたから、ほんの一瞬でもフユの秋の痛みが忘れられるのかと期待して観ていた。ところが、うーんと遠くに行くのかと思ったら着いたところは桂浜。二人はどこにだって行けるのに、心の中同様に地元に留まるのだ。
もう一人の主役といっていいのが、春という専業主婦。高知県は全国的にみても兼業主婦の割合が高い県である。とても立地の良い新しい家に住む春は、他人から見たら羨ましい主婦の理想的な暮らしを送っているはずである。
だが、春には子どもがいない。ほしいのにいないのは夫の協力がないせいだと、日常的に恨んでいるようにも見えた。きっと春の孤独もまた底なし沼だ。同窓会に行っても、独身者とも話は合わず、かといって子どものいる幸せな家庭をもつ者とも会話が成立しないであろう。
ロケが行われた場所の多くが、先行上映館であるキネマMの周辺だという。小さな地方の映画館の周りのありふれた風景がとても巧みに作品を創りあげていた。そういう意味では、なかなかに珍しい作品ではないかと思う。映画館を出たあとに登場人物に思いを馳せながら長い散歩をするのも楽しかった。
三人が求めてやまない夏は、なにをおもうのだろう。もし、この作品に続編があるのなら、それぞれの夏の人生を見てみたいとも思った。
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