劇場公開日 2023年8月25日

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「体のいい奴隷」あしたの少女 TWDeraさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5体のいい奴隷

2023年8月27日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

僅か5年前、コロナ前に起きた事件がモチーフと聞けば尚更、観終わって改めて衝撃、そして闇の深さに不安を覚えます。
日本でもつい最近、某中古車販売業者のブラックな雇用契約が話題になり、この手の問題はいつまで経ってもなくなることはないことを実感しましたが、本作で扱われた事件を作品を通して知れば、根本になる原因はけして企業だけにあるわけでないことが解ります。
そして、その犠牲になっているのがまだ未成年と思われる商業高校生たち。(ガンガン飲酒しているのはご愛敬)「実習生」という立場で面接の翌日にいきなり現場に入れられ、数日の研修(ただし、マニュアルと先輩を見て覚えろというだけのもの)で即実務、いきなりノルマを課され成績が悪いと怒鳴られる。はっきり言ってどう見ても体のいい奴隷です。
この事件の犠牲者の一人、ソヒは明るく人当たりもいい、頑張り屋で、頭のいい女性です。理不尽なことには意見を返し、頭に血が上ると手が出てしまう、、のは正しくはない行動ですが、十分に同情できるだけの理由があり正義感が強い人。だからこそ、強く感情移入して観ながら、彼女が追い詰められる様を見て胸が締め付けられます。ソヒ役のキム・シウンはドラマ出演を中心に活躍する新進女優とのことで、ドラマまで手が回らない私はお初でしたが、難しい役柄を見事にこなしているように見えました。
そして、偶然のきっかけで事件を担当することとなった刑事ユジン。ソヒを見て見覚えがあることに気づき、なんとなく引っ掛かりを覚えるわけですが、実際に調べを進めていくうちに知るソヒという女性と、この事件の背景にある問題を知るにつれて、ユジン自身も感情移入を深めていく様に胸が熱くなります。特にそれが判りやすいのは、解剖のための「申請書」と「報告書」の2度の「サイン」。基本クールで感情を表に出さないユジンですが、静かに闘志を抱く様で演ずるペ・ドゥナ、さすがです。
疲れ切った表情でビールをあおり、ふと見た足元に差し込む陽の光に気づいてその方向を見つめる様子。事件前に一瞬とは言え繋がるチャンスがあったソヒとユジン。ソヒにはユジンのような相談できる人が居ればと思え、またユジン自身もそう思ってるからこその悔しさにも共感するのです。
好みの一本です。

TWDera