「最悪の感染フライトを巡って、人々は試される…」非常宣言 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
最悪の感染フライトを巡って、人々は試される…
韓国発ハワイ行きの旅客機内で、ウィルス・テロが発生!
そのウィルスに感染したらゾンビに…はならないが、脅威的な感染力と致死率を誇る。
乗員の運命は…!?
『新感染 ファイナル・エクスプレス』の航空版のような、またまた韓国が放つ、逃げ場ナシ!限定空間パニック・サスペンス!
いつもながら、さすがと言うべきの韓国エンタメ。期待していたが、期待に違わず。
極限状態のスリル、パニック描写、テロの恐怖…。
交錯する人間模様、国内外の反応、あなたなら現実ならどうするか…?
泣きの要素や何より“今”だからこそ訴えるものもある。
リアリティーもあるが、ツッコミ所や荒唐無稽もある。それらさえも見応えあり。
何かタブーでもあるのか? どうして日本ではこういうの作れない?
コロナが我々の身近にまで迫り、脅かしたからこそ感じるウィルスの恐ろしさ。
とにかく本作のウィルスが恐ろし過ぎる。
感染力は非常に強く、かかったら最後。それがまた一人、また一人、瞬く間に増え広がっていく。
完全なる密室。逃げ場ナシ。防ぐ術もナシ。
もし、これが地上だったら…? 現実だったら…?
コロナを経験している今だからこそ、殊更震撼する。
そもそものウィルスの発生源は…?
自然的なもの…?
否。人為的のもの。
アメリカで微生物研究に携わっていた一人の男、リュ・ジンソク。
ネズミなどで実験をし、人の身体で培養。自身の身体にウィルスを宿らして搭乗し、粉末化して機内に広め…。
自殺も同然。何故この男はこんな凶行を…?
後々の展開になるが、明確な犯行理由は不明。ただ、多くの人を殺したかっただけ。
SNS上に犯行予告の動画もアップロード。
見た目は穏やかそうな好青年。が、搭乗前に受付に暴言。他の乗客に対し不審な言動も。
こういう輩が怖い。何を考えているか、何をしでかすか分からないから、怖い。
理解も動機も分かりえない。人の狂気は時に理解や想像を超える。
イケメンのイム・シワンが怪演。
感染が広がり、機長が死亡。副操縦士も感染。体調が悪化していく…。
誰が旅客機の操縦を…?
乗客の中に、飛行機恐怖症のパク・ジェヒョク。アトピーの娘の治療と自分の新職の為、ハワイへ。
飛行機恐怖症だが、咄嗟に落下しそうになった旅客機を操縦する。
実は彼は旅客機の元パイロット。副操縦士の上司でもあった。
訳あって辞職。副操縦士から何やら遺恨が…。
副操縦士も操縦不能となり、彼が操縦する事に。それはトラウマと向き合う事でもあった…。
が、守らなければならない。多くの乗員を。何より、娘を。
イ・ビョンホンが熱演。
当初は悪戯と思われた予告動画を調べた事をきっかけにジンソクのアパートを突き止め、そこで殺人ウィルスの証拠を見つける。さらにジンソクが旅客機に乗り、ハワイへ経った足取りも…。
それを知り、ク・イノ刑事は戦慄する。その便には、妻が…。
ソン・ガンホが人間臭さと存在感を発揮。
イノは地上で奔走。旅客機の乗員や妻を救う為に。
航空会社、政府の役人に協力を乞う。
指揮を執るのは、国土交通省大臣。緊急着陸をアメリカや日本に要請。
旅客機は燃料切れが近付く。
ジェヒョクはいつ燃料が切れるか分からない中、着陸出来る飛行場を目指す。
乗客を落ち着かせる客室乗務員たち。
乗客たちも希望を捨てずにいるが、感染者と非感染者で対立が強くなっていく。広がる感染と増えていく死者で、それはさらに深刻に…。
上空と地上で展開する人々のドラマ。パニック物の醍醐味である群像劇も充分。
そのパニック描写。機長が死亡して一旦操縦不能となり、落下し始めた機内は無重力状態&上下逆さまに。そのシーンの見せ方、スリル、迫力は迫真。
何度も訪れる危機。メリハリある展開。緊迫感は終始途切れず。
その危機というのが…
まず、アメリカがハワイへの着陸を拒否。機は韓国へ戻る事に。
イノ刑事らの奔走によって、ワクチンが見つかり、安堵。助かった…!
が…
ウィルスは進化しているかもしれない。ワクチンが必ずしも効くとは限らない。
韓国に戻っていた機は、急遽日本に向かう事に。
“非常宣言”を発令。航空機が危機に陥った際の不時着要請。
ところが、日本も着陸を拒否。領空侵犯として空自まで出撃して威嚇射撃。
機は韓国に戻るしかない。だが韓国でも殺人ウィルスが蔓延した機を着陸させるか否かで分断。
世論は真っ二つ(反対が弱冠多い)、飛行場ではデモも。
乗員の命の限界と燃料切れが近付く…。
韓国内は元よりアメリカや日本の対応は、当事国の者としては…。日本は威嚇射撃までするし…。
一部では反日描写なんて言われているが、もしこれが現実だったら…?
その時日本は受け入れるだろうか…?
コロナも海外からの入国を一時拒否された。
まあ状況に差異はあるが、それは白状な事なのか、仕方のない事なのか…?
受け入れたら良心国だと世界中から称えられるだろう。
が、ウィルスが日本に広がってしまったら…?
コロナが国内に広がるきっかけとなったダイヤモンド・プリンセス号の件を思い出す。どんなに処置しても、ウィルスは僅かな隙間を通って…。
やはりリスクは犯せないのか…?
描写は白状だが、対応はひとえに非難出来ない。
しかし、当事者たちの安否も…。
コロナを経験した今の我々だからこそ、考えさせられる。
韓国内での分断は激しくなる一方。
何か、手立てはないのか…?
イノ刑事は大胆な方法を思い付く。自分の身体にまずウィルスを感染させ、ワクチンを打つ。それでワクチンが効けば…。
旅客機内では決断迫られる。着陸するか否か。そして決断する。
イノ刑事はウィルスに苦しむ。やはりワクチンは効かないのか…?
旅客機内で決断したのは、着陸しない。全員で国の皆の為に犠牲になる。
今下せた、最善の道。
人は弱い。恐怖に押し潰される。だからと言って、その対応を責められない。
大事な人たちの為に。人は自己犠牲の精神も併せ持つ。誰もそれに異を唱えられない。
そんな時、奇跡が…。
ワクチンが、効いた…!
一度は拒んだ側が、旅客機の帰還を願う。帰ってきて!
覚悟を決めた乗員たち。彼らの声を聞く。我々は、見放されてはいなかった…。
ベタではあるが、エモーショナルに胸を打つ。
帰還は認められた。が、最後の難題。
無事、着陸出来るか…? 燃料は残り僅か。指示のあった着陸場までは持たない。
そこで、最も近い場に緊急不時着。
これは、ジェヒョクにとってもトラウマと向き合う事だった。何故ならその場所は…。
最後の最後まで、見せ場を怠らない。
エンタメなので単純にハッピーエンドになるかと思いきや、そうはならない。
事件後、指揮を摂った“元”大臣の責任問題やイノ刑事の勝手な行動への問い詰め。
誰かが責任を取らなければならないとは言え、その時は何もしなかったくせに、こういう時だけ偉そうにもの申す“側”こそ白状だ。
どんなに言われようと、確信している。
あの時の決断は間違っていなかった、と。
奔走した人々、渦中の人々、そして自分…。
誇りを胸に。