「「ソン・ガンホなら何とかしてくれる!」という期待を一身に背負った一作」非常宣言 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
「ソン・ガンホなら何とかしてくれる!」という期待を一身に背負った一作
予告編から察しがつく展開ほぼそのまんまなのに、それでも決して退屈させない作りは見事です。ソン・ガンホはいつも事態が起きている渦中にいるような人物ですが、今回は、事態の起きている航空機から遠く離れた地上に留まらざるを得ないという、ちょっと特殊な状況。しかしこの、現場に手を触れることもできないという彼のもどかしさが、さらに物語の緊張感を高めています。
細部を詰めると色々指摘すべき点はあるのかも知れないけど、それでもやはり結末近くのソン・ガンホの行動は、「彼なら絶対やりそう」と思わせてくれるもので、思わず胸が熱くなります。同じことを別の俳優が演じたら、もしかしたらちょっと嘘くさくなったりするかも知れないんだけど、彼が長年優れた俳優として作り上げてきた「俳優ソン・ガンホ」像があったからこそ、そこに強い説得力が生まれたんだと思います。
バイオテロの厄災から乗客を救う、という目的がはっきりとしているため、物語の主筋もまた必然的に簡潔かつ明確で、加えて様々に張り巡らされた要素もその主筋を妨げないよう入念に設計されているため、どれだけ視点が交錯しても物語を見失うことはありません。この点も素晴らしいです。唯一、犯人の来歴については脚本上の調整に苦労したのか、ちょっと説明が急ぎ足かつちょっと飲み込むのに時間を要しましたが…。それも解決への道筋にちゃんとつなげていたので、そこまで鑑賞の妨げにはなりませんでした。
もしかしたら本作における各国政府や人々の対応についての描写は、コロナ禍前だとちょっと現実味に欠けていたように感じられたかも知れませんが、現代の視点だと、非常にありそう、かつ心情的に理解できてしまうところに、創作の枠を超えて迫る切実感がありました。乗客も地上にいる人々も、どちらの心情も痛いほど理解できてしまうという意味でやはり、本作が「今観るべき作品」の一つであることは間違いありません。