「社会を変えたムーブメントとメディア側の仁義」SHE SAID シー・セッド その名を暴け 清藤秀人さんの映画レビュー(感想・評価)
社会を変えたムーブメントとメディア側の仁義
アワードシーズンもクライマックス間近の今。思えば、今からちょうど10年前のアカデミー賞授賞式で、MCのセス・マクファーレンが5人の助演女優賞候補者に対して、『おめでとう。もうあなたたちはハーベイ・ワインスタインが好きなふりをしなくて良くなったね』とぶちかましたのが、後の#MeTooムーブメントに繋がるヒントになっていたのだった。マクファーレンの発言は、当時、オスカーレースの常連だったミラマックスの元CEOが、多くの俳優たちにセクハラ行為を行なっていたという事実をジョークにしたものだったが、正直、その時、日本の映画ファンはあまりピンと来なかったと思う。
その後、アメリカの芸能界からアメリカ社会へ、さらに世界的な問題へと派生して行った1個人のセクハラ行為の実態が、メディアを介してどう拡散されて行ったかを追うのが、本作『SHE SAID シー・セッド』。事実の解明に乗り出すニューヨーク・タイムズの女性記者たちの探究心、最初に声を上げた俳優と、それに続いた被害者たちの勇気、彼女たちの声を力で押さえ込もうとする側の狡猾さ、等々。描かれるポイントは色々だが、改めて振り返って、このムーブメントが個人を経由して未だ解消されない男性社会に大きな風穴を開けたことに感銘を覚える。小さな積み重ねが、やがて世界を変えることだってあるのだと。
そして、メディア側が記事を公開する前に標的となる側に許諾を取るという、アメリカ社会のフェアネスもちゃんと描いていることに感心する。とくダネ、砲弾は闇雲に放たれるべきではないという、ある種の仁義が守られていることに。
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