「その笑顔から逃れられない」SMILE スマイル 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
その笑顔から逃れられない
タイトルだけ聞くとハッピーな作品かハートフルな作品のように思う。が、180度違う…。
昨秋の全米公開時から気になっていた本作。
昨秋の全米興行は夏の大作ラッシュの反動から例年通り冷え込み。『ブラックアダム』『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』まで大ヒットが期待出来る作品が無い状況だった。
そんな中、サプライズヒットとなった本作。監督もキャストもネームバリュー無く、そんじょそこらの低予算ホラーの一本かと思いきや、1億ドルを超えるヒット。批評も上々。
『ゲット・アウト』もそうだが、時々大化けする低予算ホラー。それには目新しさや秀でたものが必須だが、本作も然り。
精神科医のローズ。患者が自殺するのを目の前で目撃してから、怪現象が続く…。
自殺した患者も別の錯乱した患者も不気味な“笑顔”を浮かべる。
自殺した患者は死の間際に言った。人の顔をした人ではない“それ”が存在する。“それ”は他人には見えない。
やがてローズも自分にだけ何かが見え、何かが聞こえ…。
調べると、似た怪異が続いていた。人から人へ、“それ”は存在し、死を連鎖し、“笑顔”を浮かべて…。
大まかな話の流れや設定は過去の優れたホラーを連想。
精神的に不安定になっていくヒロイン。周囲から怪訝され、孤立…。リブート版『透明人間』。
自分にしか見えない何かが迫ってくる。これは『イット・フォローズ』的。
逃れられない死。期限は一週間というのは『リング』っぽい。
ただのいい所の寄せ集めにはならず、旨みを存分に活かし、本作だけの新味も。
“笑顔”。
笑顔が恐怖と化す。その発想が新しい。
話的には怪現象ホラーだが、確かに“笑顔”がインパクトになっている。
劇中幾度か浮かべる笑顔。それらが非常に不気味…。
その笑顔を見たらトラウマになりそうな…。
絶つ手段は、一つ。が、それは、人としての在り方を問われる。
“それ”や“恐怖の笑顔”は人から人へ乗り移る。だから止めるには、誰かを殺めるしかない。
しかし…、そんな事、出来やしない。
ローズは別の方法を思い付く。人から人へ乗り移るのならば、人と接しなければいい。
ローズはたった一人で“それ”と対する。場所は生家で。
今は廃屋となった生家。それは同時に、彼女自身の過去のトラウマと向き合う事でもあった…。
上質のホラーはドラマ性も高い。ヒロインのトラウマはありふれたものではあるが、その対峙や至るまでの過程を丹念に描写。
ラスト、遂に姿を現す“それ”。ちゃんと“見せる”に値するインパクトあり。新たなホラーアイコンの誕生か…?
ローズ役のソシー・ベーコンはケヴィン・ベーコンの娘。
幾つかの映画やドラマですでに女優として活躍しているそうだが、個人的には初めまして。
複雑な内面演技を見せ、性格俳優と評される父親譲りの器を期待させる。
じわじわ煽る恐怖演出。要所要所でビクッとさせる恐怖描写。ドラマの語り口も確かなもの。
上質ホラーのもう一人の醍醐味。オチ。一件落着かと思いきや、急転直下。衝撃のオチ…。
自身の短編映画を基に、長編デビュー。パーカー・フィン監督はまたまた登場したホラーの逸材。
幸せや喜び、感動を呼ぶ笑顔。
死ぬ時でさえ、最後は笑って…とも言う。
が、この恐怖の笑顔で死にたくない。最後に見たくない。
トラウマのように脳裏にこびりつく。
その笑顔から逃れられない…。
当初は配信のみの予定だったが、テスト試写で好評を博し、全米では劇場公開。大ヒット。
が、日本では劇場未公開。目下の所、見られるのは配信のみ。
本作と言い、『スクリーム』新シリーズと言い、ハリウッド上質ホラーの日本劇場未公開が続く。
惜しすぎる!
恐怖に満喫した笑顔を、また劇場で見られるように。