「これからもよろしくお願いします、山田監督」こんにちは、母さん 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
これからもよろしくお願いします、山田監督
山田洋次、92歳。
映画監督歴は63年、監督本数は90本。
自分の人生の2/3を映画に捧げ、自分の年齢と同じ数ほどの映画を監督。
超人的な製作意欲は敬服に値し、往年の名匠が多く旅立つ中、令和の今も新作を見られる事は奇跡的ですらある。
今でも精力的に活躍しておられる源は、映画への飽くなき情熱であろう。
…しかし近年、古臭さが指摘される事度々。
台詞回し、人物描写、演出に作風…昭和テイストそのまま。時折時代錯誤感も見受けられる。
いつぞやの山田監督のある発言。最近の映画館のシステムは苛々するほど面倒臭く、映画も見た気にならない。昔みたいにワーワー騒いだり、座席を蹴飛ばさんとする勢いで見たっていい。
言わんとしている事は分かるが、ちょっとねぇ…。
本作もちょいちょい違和感を感じる。
会社内で男性上司から女性社員へのボディタッチや飲みの付き合いなどが指摘されているが、昭夫のエリート思考(会社勤めは勝ち組で、ボランティアは遊び、ホームレスは脱落者などなど)、後任の外国人牧師への福江の不満(英語で説教されたって…)。個人的に何だかちょっとトゲが刺さった。
いきなりラストに触れてしまうが、昭夫は懲戒解雇の対象だった友人の木部のクビを繋ぐのと引き換えに自身が会社を辞める。仕事にも対人関係にも人生にも燻っていた昭夫が犠牲的精神で男を見せたハイライトだが、辞める必要性あったのか…? 上から睨まれつつも、会社に残り対し向き合い続ける…っていうのでも良かった気がする。辞めは逃げのように感じてしまい、あのフーテンと根本的に変わっていない。ついで言うと、クドカンが演じた木部の人物像があまり共感や同情を誘うものじゃない。周囲に喚き散らし迷惑をかけ、リアルには居て欲しくないかも…。
リストラ、家庭問題、ボランティア活動やホームレス…社会問題を取り込んでいるが、特別目新しいものではない。山田作品でだって前々から描いている事である。
山田監督ならではの視線でしか描けない“今の日本と日本人”をもっと浮かび上がらせて欲しかった気もする。
不満点ばかり述べたが、別にがっかりではない。本作も安定の山田作品。
時々ズレを感じるのは否めないが、それでも何故山田作品に魅せられるのか。
言うまでもなく、日本人の心に染み入る人情。
例え古臭いと言われても、日本人はこうでありたい、こうであって欲しいという理想像。
そして本作は久々とも言える下町ドラマ。まるであの作品の下町に帰ってきたような…。
そこに、山田監督が一貫して描き続ける家族物語。
時代は変われども一切ブレない、これぞ山田節!
昭夫の境遇には同情を禁じえない。
一流会社に勤めているが、役職は人事部長。つまり、“クビ切り”。
しかもそのリストラ対象者の中に、同期の木部が…。
家庭では、妻と別居中。娘・舞は家出中。
仕事も家庭も、今つらいよ。
さらに追い討ちが。下町の実家に戻ったら、母が変わった…?
妙にお洒落をし、何やら生き生き。
娘の舞が転がり込んでいる。
舞曰く、おばあちゃんは今恋してる。
ハァ!?
相手は同じくボランティア活動をしているロマンスグレーな牧師さん。
舞は祖母の恋を応援しているが、昭夫は…。
勘弁してくれよ!
老いらくの恋。人は幾つになっても恋をし、人を好きになったっていい。
でも、自分の母親が恋してたら…?
ちょっと複雑な気持ちになるのも分からんではないかな。
何だか皆、ファンタジーの世界の住人のよう。
そんな中でただ一人、悲哀とユーモアと同情たっぷり。山田監督作初出演だが、その世界観にピタリとハマった大泉洋。今後も常連になりそう。
大泉演じる昭夫の視点で語られるが、主演は勿論この方。
山田監督とのタッグは6作目。『母べえ』『母と暮せば』に続く“母三部作”のトリ。本作で映画出演123本目となる吉永小百合。
現78歳。映画デビューして65年。ちなみに女優デビューしてからは67年。
彼女もまた山田監督と同じく令和の今になっても精力的に活躍し続け、もはや私語になりつつある“映画女優”の体現者。
しかしよく言われるのは、どの映画出ても“吉永小百合”。
品や変わらぬ美しさは並ぶ者いないが、演技力や役幅の乏しさはちと否めない。
現在日本映画の監督のほとんどが年下。大女優に物言えない立場なのか…?
そんな中今、ただ一人と言っていい年上監督。今も尚、鋭く厳しい演技指導をしてくれる。
本作での吉永小百合は基本いつも通りは変わらないが、いつもよりかは下町の母親の雰囲気を醸し出していた。息子を「お前」と呼び、語尾が「~だろ?」だったり、失恋酒を煽ったり。そして、初の祖母役でもある。
吉永小百合の“初孫”に、永野芽郁。派手なヘアメイクに今時風のファッションで若々しさ弾けるが、祖母の恋を応援するピュアな性格でもある。
YOUや枝元萌ら福江のボランティア仲間、牧師役の寺尾聰の好演も光るが、ホームレス役の田中泯の存在感際立つ。
『PERFECT DAYS』とはまた別の視点で、東京の風景が美しい。下町の人たちはあんな風にスカイツリーを見ているんだなぁ、と。
屋台船、乗ってみたい。
クライマックスを飾る花火に、たまやー!
福江が暮らす実家の雰囲気が、あの団子屋を彷彿させ何処か懐かしい。(こちら足袋屋だけど)
光る台詞もあった。福江の「クビを切るより切られる方がマシ」。
福江と亡き夫の馴れ初め。回想シーンだが、妙なドキドキ艶かしさがあった。
心温まる下町人情劇だが、侘しさもほんのり。
福江の失恋。結局会社を辞め、妻とも離婚した昭夫が一番の貧乏くじかもしれない。
が、七転び八起き。暫くよろしく頼むよ、母さん。
終わってみれば、特別何も劇的な出来事は起こらない。
それが下町の風景や家族のありのままの姿なのかも。
下手な語りだったら退屈になりそうなものを、そうはならない。肩の凝らない作品とはアクションやコメディを多く指すが、本作もそう。
温かく、気持ち良く、心地よく、見れる。
山田洋次監督は日本人の心に寄り添い続ける。
年齢だけ見ればいつ遺作になってもおかしくない。
後何本手掛けられるか分からないが、これからもよろしくお願いします。
まずはずっと待ち望んでいる『家族はつらいよ4』を!
吉永さんに物言える監督は、ほんとにお一人だけかもしれませんね。NHKの特集を見て、改めて思いました。
友人の人、木部さんでしたっけ。脚本のせいか、俳優さんのせいかわかりませんが、どうにも好きになれなかったことを思い出しました。
私は山田監督の作品はほとんど見たことがありませんが、この作品、あたたかな感じが好きでした。
次の作品も楽しみですね。
今晩は
そうなんですよ、ラジオで対談を偶然聞きました。
お母さんは監督の家で亡くなったそうですが、
子供を置いて出たことを、「私は後悔してないよ」と最後まで、
すまなかった、とか言わない気丈な人だったそうです。
それはそうと、明太子卵かけ御飯は3度食べました。
たくあんの細切りと相性がいいみたいでした。
美味しいですね。