「何が言いたいのかわからないけど、わりと好きです」こんにちは、母さん 福島健太さんの映画レビュー(感想・評価)
何が言いたいのかわからないけど、わりと好きです
このお話を通じて何を伝えたいのかは、よくわかりません。
お母さんの家に出入りする近所の人達や、牧師さんに名刺を渡したときの反応からすると、主人公は本当に有名な大企業に勤めているのでしょう。
で、人事部長をやっていて、同じ会社に勤める友達をリストラしなければいけないので苦しんだというのですね。
それも、友達は入社以前からの付き合いで、大学生の頃には友達から頼まれてラブレターを代筆をして、それが結婚までしているのだから、そういう一番照れくさい相談事をされるような親友だったのでしょう。
奥さんとは半年前から別居中で、娘は母親が「お父さんと同じくらいのいい会社に就職しなさい」などといって将来の夢とか自分自身の望む将来に興味を持ってもくれないので家を飛び出しておばあちゃんの家に居候。
お母さんはホームレス支援のボランティア団体の活動に打ち込みつつも、息子である主人公が50歳近いというとおそらく70代や80歳くらいの高齢だろうに、死別した元夫を大切に思いながらも、残った人生を幸せに生きようとしている。
登場人物の多くが、普通に現実であり得る範囲程度で色々な悩みや思いを抱えているのは、物語の舞台としては親しみを感じるものでした。
お話を通して主人公が何か成長したとか、世界が救われたとか、よくある物語にありそうな、物語を通じて何か変わったものっていうのがわかりにくいお話でした。
だって、親友を助けたのと引き換えに主人公自身がクビになったけど、その理由がわかりません。
よくあるのは、その決断に至らしめるような、価値観に影響を与えるような出来事が描かれることでしょうが、半分呆けて戦時中の話をしてくるおじいさんと会ったり、別居中の妻から離婚を切り出されたり、一見関係のなさそうなことしか起こっていません。
日常の中で、特に大きな何かが起こったわけではないけれど、自分自身の中にあった経験なのか性格なのか、何らかの要因で親友を助けて、元々性格に合っていなかった人事部長の仕事を自分の意思で手放して無職になった。
失業したけれど精神的なストレスからは解放されてどこか晴れやかっていう、ハッピーエンドではない結末です。
映画のために作ったドラマというより、ありふれた中年サラリーマンの人生の一部をそのまま切り取ってドラマにしたような、あまりドラマチックではないドラマだと感じました。
でも、だからこそ難しいことを考えずにダラダラ観られます。
「この映画のここが好きだ」というような明確さはないんだけど、なんとなく親しみを感じて、わりと好きになれるお話でした。