配信開始日 2022年10月28日

「構成の妙味はあり、衝撃度は前作の方が上かな」西部戦線異状なし つとみさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5構成の妙味はあり、衝撃度は前作の方が上かな

2024年3月17日
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鑑賞方法:VOD

戦争映画の名作と謳われる1930年の「西部戦線異状なし」、それをリメイクと言うかリブートと言うか、とにかくドイツ制作・Netflix配信で世に送り出したのが今作だ。

思い返せば前作はかなりエモーショナルな映画だった。先生の弁舌に高揚し、パリへ進軍する気満々に出征する若者たち。予備役のおっさん軍人と補給部隊でひもじい思いをしながら、活躍出来ないことへ不満タラタラになる若者たち。
それが、最前線の塹壕に放り込まれ、いかに自分たちが「戦争」を知らなかったか、衝撃と恐怖を持って身につまされる若者たち。
それは、戦争を知らない世代である私を戦争の中に引きずり込んでいく映画でもあった。所詮は他人事という感覚が「戦争を知らない人」たちの中に垣間見え、それはかつての自分でもあるのだという重苦しい感情が、主人公を通して流れ込んで来るような映画だったのだ。

比較すると、今作はカラーになって凄惨さが増し、また展開もかなり早い。補給部隊での日々がまるまるカットされ、「戦争舐めプモード」からの「ガチ塹壕」という緩急がない。
そのかわり、作品の中で意図的に反復される映像が主人公の心情変化や西部戦線そのものを暗喩している。舞い落ちる出征志願書(塹壕という名の墓穴へ落ちていく若者)と空へ舞い上がる灰(天国へ昇っていく兵士)、ガチョウ(成人)を盗むシーンと卵(若者)を盗むシーンなど。

ただそれはエモーショナルな体験ではない。どちらかと言うと、感情が消えていく体験だ。
同じ学校の友達も、同じ連隊の仲間も、敵兵に抱いた仲間意識も、何もかもなくなって、感情すら失くしたように見える主人公と同じように、可哀想とか酷いとか、そういう意識が遠のいてただ「するべきで無い事をした」という諦念に近い無情感だけが残る映画体験である。
出征志願書に親からサインを貰えなかった主人公は、取り残されたくないという思いでサインを偽造した。それは「するべきで無い事」だったのだ。
列強に取り残されたくないから、と領土侵攻に乗り出すこともまた「するべきで無い事」なのである。

暗喩と示唆に富んだ良い映画だったと思うが、テーマを物語として構成し、観る側の感情を揺さぶり、衝撃と共に幕引きする点で、私個人は前作の方が好みである。

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つとみ