独裁者たちのときのレビュー・感想・評価
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映画を更新する映画
冒頭に「これはAIを使っていない」とわざわざ出る。このご時世なので、予防線は貼っておくべきなのだろう。この作品は、実在した独裁者たちが画面に登場するが、それは過去のアーカイブ映像から取られたものだ。彼らが本物であることが重要な作品と言える。彼ら自身は本物だが、舞台となるのは幻想の地獄のような場所である。モノクロ映像で輪郭のはっきりしない映像を作っているので、古い映像から切り取られた登場人物たちも違和感なく画面に存在している。背景のテクスチャーと登場人物たちを見事に合わせていることで、この映像の真偽があやふやになっていく。
本作の原題は「Fairytale」である。本物のフッテージ映像を用いて、幻想のおとぎ話を作るとは大胆な発想だ。さすがはソクーロフだ。これは実写映画というべきか、アニメーションというべきか。カテゴライズを拒むような挑戦的な作品であり、映像制作の倫理の面でも色々な問題を投げかけている。独裁者だからこそ成り立っているというべきか、これを例えば昔のハリウッドスターを使ってやったらどうなるのかとか、色々と考えてしまう。AIを本作は使用していないが、AI時代に盛んに議論されることになりそうな要素がふんだんにある作品だ。
クソコラージュ幻想
数少ないアーカイブ映像でこんなことができるのか!
ドキュメンタリーではない映像の創造の可能性の広がりを感じた。
それにしても眠たい、いや寝落ちした。
さて、
独裁者には独裁者に仕上げる大衆が必要なのだが、
死後の彼等を永遠に賞賛する大衆が居なくなっていて、
アーカイブを生きている様に動かしてみても独裁力を感じることは全くない。
あの独裁者だったときの狂気のオーラは、
群衆が大衆が育て創り上げた偶像で幻想であった様な気がする。
そんな独裁者の中に、
姿なきナポレオンと寝台に横たわるキリストが含まれていたのが愉快であった。
^ ^
「エルミタージュ幻想」「太陽」などで知られるロシアの鬼才アレクサンドル・ソクーロフが、
ダンテの「神曲」を彷彿させる冥界を舞台に、神の審判を受けるため天国の門を目指してさまよう独裁者たちの姿を描いた異色ドラマ。
深い霧に包まれた廃墟の中に、
ヒトラー、スターリン、チャーチル、ムッソリーニという、
第2次世界大戦時に世界を動かした者たちの姿があった。
煉獄の晩餐が始まると、
彼らは互いの悪行を嘲笑し己の陶酔に浸る。
彼らは地獄のようなこの場所で、
天国へと続く門が開くのを待っているのだった。
実在した人物たちのアーカイブ映像を素材として使用し、
独特なデジタルテクノロジーで彼らの姿をスクリーンによみがえらせた。
んセリフも全て実際の発言や手記を引用している。
^^
総統閣下はお怒りではなかったようです
退屈だったけどチャーチルが
ソクーロフの新作は映画史に残る怪作
作戦勝ち。
アーカイブ映像、音声のみでこれだけのものができるのかと感心はした ...
アーカイブ映像、音声のみでこれだけのものができるのかと感心はした しかしキリスト、ナポレオンみたいな人は何がモトなんだろう
話題のChatgptでも映画とは言えんかもだが面白いの作れそう
実際は天国の扉には程遠い人達ばかり 閻魔大王は西洋的な発想には無いのかな
そして皆兄弟仕立て、動きがぬるいのはなぜ?
チャーチルだけが。
2022年。アレクサンドル・ソクーロフ監督。スターリン、ヒトラー、ムッソリーニ、チャーチルという第二次世界大戦にかかわった政治指導者4人が、煉獄らしき場所にある「掟の門」的なところで門が開くのを待つ。そこには衰弱したキリストも体を休めており、神による救済を待っている、という「物語」。
冒頭でわざわざ「お断り」がある。ここにはディープフェイクもAI技術も使われておらず、過去の実際の映像のアーカイヴ資料だけが使われているという。すごいには、文脈の異なる映像の切れ端を集めてくる、しかもそれぞれ複数の映像を合成せずにばらばらに使用しているのでスターリンが3人、ヒトラーが4人になるのもいとわないのだが、それで上述したような「物語」を感じられるということだ。会話はかみ合っていないのだが、流れがつくれてしまうのは、指導者たちの言動が基本的に政治的なものであり、大衆に向けて敵をつくって戦いを鼓舞する煽りだからだろう。冒頭で横たわっているスターリンが起き上がる場面はよくあったなと思わせるが(しかも映画のなかではキリストと並んで横たわり、会話を交わしているように見える)。波のようにうねる「大衆」の表象もすごい。
チャーチルだけはほかの3人と意味合いが異なり、実際に、門の中へと迎え入れられる(天国行き?)のだが、最初にそれが保留されるのは戦争で大量死を招いたという意味で独裁者的ということか。ほかの3人が大衆への直接的な結びつきをことさら言明するのに対して、チャーチルだけが大衆との間に距離を感じさせる描き方が興味深い。
おとぎ話
ドレ或いはウィリアムブレイク挿絵の『神曲』の実写版のようで興奮した。
各国の命運をかけた第二次世界大戦。独裁者たちの回復不可能な罪状。
ダンテが『神曲』で何人もの教皇たちを地獄に堕としたように、ソクーロフは彼らを煉獄に閉じ込めた。
しかし原題は『Fairytale』。壮大極まりない『神曲』ではなく、あくまでおとぎ話風だ。
“子どもたちは地球が大好きだったので、いつかふたたび人間の子どもになりたいと思っているのです。
天国の扉の向こうへ行けない子どもたちは、人間の子どもになることをここで待っているのです”
って感じで怖かった。
食べることも飲むこともできない霊界。「自我」は 霊界の体験に満足できなくなるだろう。物質体験の中で自分を映し出さなければ満足できなくなると、「地上に生まれたい」という渇望が生じ、その要求に見合う“頃合い” を見計らって、地上へ戻ってくる。
天が、轟音とともに波に巻かれる大衆の阿鼻叫喚を彼らに示すが、罪悪感や畏敬の念を持ち合わせない彼らは嘲笑するだけ。カルマの解消どころか、以前の人生で自分が他の人に与えた苦痛を、新しい人生でも再び与えるだろう。
ナポレオンと、増殖するチャーチルの1人はエリザベス女王のいる扉の向こうへ行ったようだが、イエスは独裁者たちとともに煉獄に残っていた。国家的覇権主義が蔓延する現代、イエスは地上に戻ってくるのか?体じゅうが痛いって言ってたから、そんな元気なさそう。
余談。
『太陽』で、昭和天皇を一人の人間として扱ったソクーロフ。日本におけるタブー中のタブーを題材にした作品だが、私はまだ観ていないのが残念。
なんとも不思議な
ここは冥界?靄ったモノクロ映像の中、兵士の死体とおぼしきものもチラホラ。蠢く虫のような大衆も背景に現れたりもする。そこを歴史ドキュメンタリーなどでお馴染みの男たち、ヒトラー、スターリン、チャーチル、ムッソリーニがふらふらと歩いている。名だたる独裁者であり大量殺人の張本人でもある(チャーチルもこの括りに入るの?)。彼らは「私を支持する民衆が…」と自画自賛を述べたりもするが、これに対してお互いに皮肉と揶揄を返す。彼らの発する大量の言葉は意味深で哲学的ととれなくもないが、結局言葉の意図なんて、何もないんじゃないかな。僕は全部空っぽに聞こえたけど、どうなの?
すべての映像は実際のものを編集したものであり、彼らの姿を長々と(78分だから映画としては短いけど)観るのはなんとも不思議な感じ。
コラージュ的な面白さ
題材的に大いなる思想や意志があるのかもしれませんが、個人的にはそんなのは全く分からなかったし、それが重要だとも感じなかったので、映像そのものを存分に楽しめた気がします。
思った以上に映像が面白くて、モノクロ中心の映像ながらも神秘的な美しさを感じたし、スタンダードに近い画角ながらも迫力を感じる映像に相当見入りました。
登場する面々も超越した人物ばかりだったので、言っていることが意味不明、脈略ハテナな感じであっても、やっぱこの人たちの言うこと分からんわーと割り切ることができたので、哲学的難解な台詞の数々もかえって楽しめたように思います。
冒頭の説明が全てを物語っていて、徹底したコラージュの妙というか、作家の創造性の中に、ナチュラルかつ生き生きと、故人となっている独裁者を魂があるかのごとく演出している点が実に面白くて、内容なんて関係なくなるぐらいのインパクトがありました。
こんなのも創造してしまうのですから、やっぱただ難解なだけの巨匠ではないのだとつくづく思った次第。
ブーメラン合戦
独裁者達が異世界をブラブラしているのを眺めるヘンテコだけど荘厳なディープフェイクアニメ
ということで映画祭28作目はこちらのロシア映画、アレクサンドル・ソクーロフ監督の『フェアリーテイル』。ロシアの巨匠として名前は知ってはいたものの作品を見るのは初めてです。
崩れかけた廃墟が立ち並ぶ灰色の世界でイエス・キリスト、ナポレオン、ムッソリーニ、スターリン、チャーチルそしてヒトラーが含蓄があるようなないような会話を交わす様をボーッと眺める作品。
一応アニメーション作品ということになるのでしょうか、ディープフェイクで再現された独裁者達がその辺をブラブラうろついている映像は結構なレベルでシュール、お互いをやんわり批判し合ったりする目糞鼻糞な感じとかに何となく笑える感じはありますけど、彼らが日々を過ごしている世界の荘厳さがそれらを全部帳消しにします。巨大な地獄絵図と対峙しているかのような78分間はうたた寝で見た悪夢から醒めた時のような重い余韻を伴います。
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