劇場公開日 2023年3月3日

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「天才・スピルバーグが出来るまで」フェイブルマンズ zuzuさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0天才・スピルバーグが出来るまで

2023年3月8日
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泣ける

知的

幸せ

〈全てのことには意味がある
It shows what the artist is made of.〉

アーティストであることは、家族や人間関係を壊す、とても辛い仕事だと登場人物は繰り返し示唆する。なのに何故、少年はアーティストを目指すのか、映画を撮り続けるのか。

この映画は、自伝でもあり、アーティスト・スピルバーグのマニフェステーションでもある。

天才の作品が、隠れていた人間の本質に光を当てる。その瞬間、平穏な人々の心や日常が、音を立てて崩れていく。優れたアートはそんな諸刃の剣を持つ。

父と母の葛藤は、サイエンティストとアーティストのそれであり、決して交わることなく、相対したまま、頂きを憧憬する山の両裾だった。
天才の子供は、その葛藤を昇華し、山の高みを押し上げる力に変えていく。

「カメラはいつも真実を映す」
何気なく撮った家族の旅の記録映像、そこには母の父への裏切りの証拠が映し出されていた。それが家族を新天地、カリフォルニアへ移住させ、サム(スピルバーグ)に人種差別と虐めの学園生活を強いることになる。

コンピュータ黎明期の発明を担う天才科学者の父の成功、広く美しい新居、誰もが羨む生活。だがサムの映像に映る母の眼は空虚だった、恋人と離れてしまった哀しみで。両親の離婚。華やかな成功と裏腹に家族は不幸だった。

高校最後のプロムスは、常に理想と現実のギャップの想い出として描かれる。恋人とロマンチックなダンスをしながら、サムが愛と真心を言葉にすれば、彼女は嫌悪し、これまでの関係が虚構だったことを浮かび上らせる。

サムが撮った学生生活の一日、カメラがとらえたライバルの美しい勇姿に賞賛が集まる。だが、そのヒーローの映像は、皮肉にも、虚勢を張った弱い自分とのギャップを当人に突きつけ、心を破壊する。
「友達になりたくて撮った」というサムの気持ちと裏腹に、偽物のヒーローは去っていく。

アーティストは、そんな十字架を背負わなければいけない、それでもアーティストになるのか?

サムは、奇しくも引き合わされたハリウッドの巨匠に、そう質問された。

イエス!

はっきり答えるサムに巨匠は、突然、地平と画角の話をする。画角のアドバイスなのか、深淵な哲学なのか??

色々な?が、投げかけられたまま、最後、サムはハリウッドの撮影村のコンテナの間を満面の笑みでスキップする。

よかった、彼は喜びに満ちていた。だから作るのだ。

zuzu