劇場公開日 2023年5月5日

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「アリガト、ガンシタ」銀河鉄道の父 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5アリガト、ガンシタ

2023年11月9日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

父親がそして妹が、天才・宮沢賢治を見抜いていた。
親バカで、甘すぎるほど甘い父親、
子煩悩という言葉がこれ程当てはまる父親像。
でも親の眼鏡が曇っていたのではなくて、
本当に宮沢賢治は才能溢れる天才だった。
目利きの父親そして目利きの妹・・・だったでは?
と、そう思いました。
宮沢賢治の自伝を父親政次郎(役所広司)の目を通して描き
父親を描くことで宮沢賢治が浮かび上がる映画です。

何度も何度も泣きました。
父親(役所広司)が割烹着を着て赤痢の幼い息子を看病する姿。
妹トシ(森七菜)は、
兄・賢治(菅田将暉)の才能を愛し信じて、
「日本のアンデルセンになるんでしょ!!)
と励まし、父に兄の進学を進言する。
兄思いの優しさと凛々しさそして母性。
呆けた祖父(田中泯)を固く抱きしめて掛ける言葉。
トシは結核に伏せると兄・賢治が読み聞かせる童話を
感動して涙にむせび、そして喜ぶ。
トシの死後、書く意欲を失う賢治に政次郎は言う。
「今度は俺が読む、俺が読者になる」

なんとも美しい一家です。
この家族の心根の美しさを凝縮したのが宮沢賢治である。
そう思いました。
それにしても宮沢賢治の童話は素晴らしい。

「セロ弾きのゴーシュ」
町の楽団で下手なセロ(チェロ)弾きのゴーシュ。
練習する部屋に毎晩、
三毛猫、かっこう、狸の子、野ネズミの親子が、
現れて「学びたい、教えて!!」とせがむ。
すると、
遂にゴーシュは音楽会に大成功を収めて、
「印度の虎狩」をアルコールで弾くほど上達する。

「注文の多い料理店」
これはそのブラックさに子供心に驚き感心したものでした。
猟に来た紳士2人が道に迷い、とんでもない山奥に
実に立派な西洋料理店を見つけます。
注意書きには、
クリームを塗れ!!
塩をすり込め!!
それは何と彼らを食べるための、注文書きだった。

「風の又三郎」
ある日、村の学校に不思議な転校生がやってくる。
赤毛の口をキュッと結んだ男の子・三郎。
子供たちは好奇心に駆られる。
なんとも不思議な自分らとは違う男の子なのだ。
しかし子供らは三郎と仲良く遊び、三郎のススメで、
馬を野原に逃して大変な思いをしたり、
暴風雨の中、命からがらの冒険をする。
(男の子は風の神であった・・・
風が吹き抜けるような不思議な童話

なんともハイカラ!!
この映画で描く宮沢賢治像、
「父親の目からみると、死ぬまで庇護の必要だった」
「自活せず何者にも成れなかった、認められずに死んだ青年」
それは世間の目に映った姿
と言うよりも
どの角度から見るかによって違う・・・
のでしょう。

私には誰もが愛する「アメニモマケズ」を書いた国民詩人、
こんなに愛される詩がほかにあるだろうか?
聞けば必ず涙する。
父・政次郎が死の床の賢治に
大声で読み聞かせるシーンは、涙腺が決壊しました。
役所広司が上手い、素晴らしい。

今読んでも新しい童話を書き、
晴耕雨読の日々を生き、
農業指導に優れた指導力を発揮して、
理想主義を貫いた青年。
そう思えるのです。

それにしても、
トシの葬儀で、
南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ)
を唱える宮沢家の宗派に対して、
南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経(なむみようほうれんげきょう)
と狂ったように唱える賢治。
お父さんは本当に大きい、実に大人物でした。

妹トシが賢治に果たした役割は多く語られているようですが、
父親も母親も妹も弟も実に麗しい一家。

風の又三郎に吹く風の描写があります。
どっど
どどうど
どどうど
どどう

賢治の文学は新しい。
独特の世界観。
そして勇気に満ちている。

没後ではあったが宮沢賢治が正当に評価されたのは嬉しい。
そう思います。

琥珀糖
ゆり。さんのコメント
2023年11月19日

琥珀糖さん、私は本作には感動できなかったんですが、共感ありがとうございました。でも、役所さん、菅田さんはさすがの熱演でしたね。

ゆり。
こころさんのコメント
2023年11月11日

琥珀糖さん
『 文学に向かう激しさの狭間 … 』、賢治が苦悩する姿がリアルでしたね。
『 優しさに打算とが入り混じって … 』、生活なので大なり小なり皆、そんなものなのかも知れませんよ 😌

こころ
こころさんのコメント
2023年11月10日

琥珀糖さん
コメントへの返信を頂き有難うございます。
自身の生き方に悩む宮沢賢治、父や妹の賢治に対する思い、賢治の父親や妹に対する思い。温もりに満ちた家族の存在があったからこそ、小さな存在にも温かな眼差しを注ぐ賢治だったのでしょうね。

こころ
こころさんのコメント
2023年11月10日

琥珀糖さん
宮沢賢治の作品を幾つか読み知っている、NHKの特番を数回見た、盛岡を訪れた事がある、程度なのですが、宮沢賢治さんの作品から滲み出るひたむきさに惹かれます。
慈愛に満ちたご家族でしたね。

こころ